hoshi-itsu’s 本にまつわるblog

「ほしいつ」です。海外ミステリが中心のブログです。下書きがなくなってしまったのが悲しい……。

『門番の飼猫』E・S・ガードナー, 田中西二郎訳,早川書房,1935→1977

 ここ数年、自分が読みたいミステリ小説がなくなって探すのに難儀しています。一匹狼で貧乏な私立探偵、あやしげな依頼人、失踪人や宝物の探索、真実か嘘か分からない供述をする関係者への聞き取り、そして意外な犯人というシンプルなストーリーを読みたいと。そこで行き当たったのが、A・A・フェアのドナルド・ラム・シリーズ。しかしなかなか手に入らないので、その合間にメイスン物に手を出したのですが……。ここにきて飽きてしまいましたよ、あまりのマンネリ気味に。

 そういうなかで本書は、弁護士ペリイ・メイスン・シリーズ7作目の作品だから初期ですね。カバーには「ガードナーの代表的傑作」という紹介文があり期待して読みました。結論はといいますと、メイスンの魅力とマンネリが詰まった作品といえるでしょう。

 メイスン・シリーズは、行動的な主人公、リーダビリティのある文体とスムーズな展開、法律を駆使した現実的でありながら少し意外な結末などにより、世界的なベストセラーになりました。しかし、現在ではまったく代表作すら残されていません。他のミステリ作家でしたら、代表作の1〜2冊ぐらいすぐに浮かぶものですが、ガードナーにはありません。それは、「現実的で少し意外な」程度の結末だったからでしょう。しかし、それが多くの人々が求めるベストセラーの条件だったからです。この「現実的な」というのがミソで、現代人が心を消費し休めるにはちょうどよいのです。最近の日本のミステリにもありますね。

 また、読みやすさと言う点ですが、まず第1章でメイスンが依頼人から話を受けて、読者に事件の基本設定と概要を説明します。つぎの2〜3章でそれを受けて、メイスンは行動し捜査を始め、まずは一時的だけど現実的な解決に導きます。その後、その事件が本格的に展開し殺人が起こり、たいていは依頼人が容疑者として逮捕され、メイスンに再び無実を勝ち取るよう再依頼をします。さらに進んだところで、ガードナーは必ずそれまでのお話の内容を、登場人物に説明をさせており、読者がもう一度戻って読まなくてもよいという構造になっています。

 それと、主人公のキャラクターを挙げられるでしょう。メイスンは決して法曹界の善人ではないのです。本書でもありましたが、ときどき読者の心をざらつかせる裁判上の駆け引きを行います。時にはメイスンが悪役にもみえるのです。下手してうまく展開していなかったら、メイスン自身の名誉を汚す行為なので、読者は思わずハラハラしてしまうのです。ここがうまい。

 本書は、典型的なそのような作品です。冒頭で猫が殺されてしまうので守って欲しいという依頼人が登場します。彼は門番でその猫は、2週間前に火事で死んだ金持ちのもので、その門番が譲り受けたもの。その金持ちが残した遺産は、遺言によって3人の孫のうち2名が譲り受け、1人は除外されたらしい。興味をもったメイスンは、その門番の依頼を受け、遺言状を曲解して猫を殺すよう要請した孫に対抗した。しかし、その門番は殺されてしまいます。

 まあ、少々無理のある設定なのですが、上記のような特徴が生かされており、まあ読んでいる時間は損しない作品であります。☆☆☆★というところなのが、ガードナーなんですよね。

門番の飼猫 (ハヤカワ・ミステリ文庫 3-7)

門番の飼猫 (ハヤカワ・ミステリ文庫 3-7)