私立探偵のバーサ・クール&ドナルド・ラム・シリーズの第13作目の作品。比較的中期のようです。ポケミスのみで文庫から出版されていません。
ある銀行家の息子が自らのアリバイのために、モテルに一緒に泊まった二人の女を捜してしてほしいという依頼があった。女についての手がかりがほとんどなかったのだが、そのモテルの部屋を探るとあっけなく二人の女性を見つける手がかりをあり、二人を捜し出すことができた。女の態度から、その依頼人のでっちあげで、ラムは自分が利用されたと思い、その日に起こった事件を調べるとひき逃げの事件があったのだった……。さらに、その日に遊んでいたギャングの上布のモーリンが死体で発見された。それに関わりがあったと思ったラムは独自に捜査を始める。
話が複雑で、かつ鉱山経営者、その会計士、ロスアンジェルスのギャングの親分などが、どうもキャラクタがつかみがたく、一読しただけでは、内容が頭に入りませんでした。ラムは複雑な時間軸の流れをつかみ解決にもっていくのですが、あの証拠だけであそこまで推理してしまうなんてね。☆☆☆というところです。
以下は、ドナルド・ラムと二人の女の一人、ミリイとの会話。何故、そんな男に金で協力したのか聞いているところです。ストーリーの本筋ではありませんが、面白いので引用します。
「きみはサンフランシスコにやつてきて、苦労をしらない金持のドラ息子どもにあった。きみの友達は、みんなそういったタイプだつたらしい。そして、プレイガールのレッテルをおされた。すんだことは、しかたがない。でも、なぜ、しらない街にいつて、仕事をさがさないんだ? そして、あたらしい友達をつくり……」
「ドナルド、あなたはなにもわからないのねえ」ミリイが口をはさんだ。「今まで、いつしようけんめい働いてきずきあげたものを、みんなすてろっていうの? そして、また、わずかなサラリーからはじめ、たつたひとりぼつちのさみしい毎日をおくつて――。
わたしは、じつとしているのはきらい。外に出て、うごきまわつているのがすき。いろんな人にもあいたいし――。刺激と変化がなくちや、生きていけないわ。泥のなかにもぐりこんだままでいるのは、いやよ。うちにひつこんでいるのもきらい。おもしろいショウを見て、いい音楽をきき、一流のナイトクラブでおどりたいのよ。わたしは贅沢がすきなの」(86ページより)
「おねがいだから、冷水をぶつかけるようなことをしないでよ。わたし、自分の未来に賭けたの。もう、グズグズ考えこんだりはしないわ。今までにも、何度も、やりたいとおもうことがあつたけど、もしまちがつて、わるい結果になつたらいけないと心配して、実行しなかつたの。世の中には、いろんなことがおこるわ。だけど、わたしがおそれていたようなことは、まだ、わたしの身には起つていない……。ほんとになにかしたくて、それをやらなかつた場合には、よけいざんねんなものだわ。一度きりのチャンスで、もう二度とやつてこないこともあるでしよう。あとで、きつと、後悔するとおもうの。だけど、やりたいことをして、もしこまつたことになつても、なんとかそれをきりぬけることができたら、押入れのなかにはいつて、一生涯とじこもつているよりましだわ。ねえ、ドナルド、わたし、こんどはおもいきつて、やつてみるつもりなの。リオデジャネイロにいくわ」(87ページより)
- 作者: A.A.フェア,田中小実昌
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1961
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↓は原著ですが、つい最近復刊されているのですねえ。ありゃ、ガードナー名義だ。
Top of the Heap (Hard Case Crime Novels)
- 作者: Erle Stanley Gardner
- 出版社/メーカー: Hard Case Crime
- 発売日: 2011/03/29
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↓『馬鹿者は金曜日に死ぬ』A・A・フェア、井上一夫訳、早川書房、1957はこちら。
http://d.hatena.ne.jp/hoshi-itsu/20090714
↓『梟はまばたきしない』A・A・フェア,田中小実昌訳,ハヤカワミステリ文庫,1942→1979はこちら。
http://d.hatena.ne.jp/hoshi-itsu/20080114