ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『天外消失』クレイトン・ロースン, フレドリック・ブラウン, ジョン・D・マクドナルド, ジョルジュ・シムノン, 他, 早川書房編集部・編、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2008

 私は、本書の中の数編はすでに読んだことがあります。それは、本書の原本である『世界ミステリ全集』の最終巻『37の短編』です。高校生の頃、海外ミステリを意識的に基礎的な名作・傑作を読み進めていたのですが、高校から自宅まで遠回りするとある図書館で、その『世界ミステリ全集』がたしか海外文学のところではなく、全集のような分類項目のところに並べられていて、あまりの分厚さに家に持ち帰ることなく、勉強の途中などに解説などをつまみ食いをしていたわけで、そんなとき、一番最初の「死刑前夜」を何の予備知識もなく読んだところ、最後のページで「なんじゃこりゃあ。いったいどういうこと?」と驚愕したものです。

「ジャングル探偵ターザン」…ターザンシリーズは初読なので、幼少の頃見た映画やテレビのターザンとは少し異なるので驚いた。当たり前と言えば当たり前ですが。
「死刑前夜」…高校時代の初読時、誰もがするように、最初から読み直したものです。今回、その仕掛けを朧気ながらしか頭になく、最後になって思い出した次第。
「殺し屋」…いつものシムノン
「エメラルド色の空」…ポーのようなアンブラー。
「後ろを見るな」…ブラウンの作品はどれも影絵芝居をみているような、童話のような曖昧さと懐かしさを感じます。本作品も同じでしたが、じわじわ読者に語りかけてくる展開はぐっと来ます。
「天外消失」…クイーンとの談話の中で生まれたというような逸話をもつ名短編。トリックそのものは現在さまざまな作品に用いられているものでした。
「この手で人を殺してから」…トリックは昔からあるバリエーションの一つですが、映像的でありリアリティがあります。
「懐郷病のビュイック」…銀行強盗したギャングが逃げたところは…。
「ラヴデイ氏の短い休暇」…善意を裏切るのは面白いね。
「探偵作家は天国へ行ける」…楽しいパロディ。
「女か虎か」…これも昔読んだことがあります。たぶん『ハヤカワミステリマガジン400号』でした。当時どのように読んだのか忘れてしまいましたが、今回改めて読むと、やはり女かな。やり直しは効くしね。
「白いカーペットの上のごほうび」…深夜のバーで色っぽい女に部屋に来るよう誘われる男。女に弱い男の描写が上手い。
「火星のダイヤモンド」…SFミステリ。フォボスなんて懐かしい。
「最後で最高の密室」…男が密室で首を切られて殺されたが、犯人は消えていた。

 というわけで、バラエティ豊かな短編集で、外れはなしということで☆☆☆☆☆です。精神的に疲れていて、長編が読むことができないときには、うってつけなので、とりあえず購入しておいて、一編ずつつまみ食いするように読むのがよいでしょう。今回の私がそうでしたから。

天外消失 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1819)

天外消失 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1819)