ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『読者よ欺かるるなかれ』カーター・ディクスン, 宇野利泰訳,ハヤカワ文庫,1939→2002.

 本作は、デビュー作の『夜歩く』の出版が1930年ですから、カーの初期作の範疇になるでしょう。ヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)シリーズです。

 病理学者のサーンダーズ博士は、友人の弁護士のチェイスに、女性作家マイナ・コンスタブル夫婦が開催する読心術師ペニイクを招待した小さなホームパーティに招かれた。そのパーティでペニイクはマイナの夫のサムの死を予言したところ、後日その予言が実現してしまった。サムは複数の人間の面前で原因不明(心臓麻痺)で死んだのである。さらにペニイクは、新たにマイナの死を予言する。それを遅れて到着したHM卿は阻止しようとするのだが……。

 読心術師のペニイクは、その原因を自分だと自ら告白するのですが、ペニイクには歴然としたアリバイがあり、殺人犯ではありえないという謎と不可解性は面白いのです。しかし、検死をしているのですが、殺人なのか、病死なのかもわからないところが、時代性を感じます。トリックそのものは、現代から見ると、ありふれているものでありますが、当時は斬新だったのでしょう。これは現代でも通じるのですから。サイコ気味であるため、謎解きという面からはアンフェアにも感じます。第一の事件の解決方法は、やはり後出しですよねえ……、まあカーにはよくあることではありますが。長すぎず短すぎずちょうど良く、☆☆☆★というところです。
 タイトルは、主役(語り部)のサーンダーズが中途に2回読者に忠告していることを示すと思われますが、あまり意味がありませんでしたよ。

読者よ欺かるるなかれ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

読者よ欺かるるなかれ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 原著は以下のとおり。復刊されたものですね。

The Reader Is Warned (Crime Classic)

The Reader Is Warned (Crime Classic)

 実はカーの他の作品を読んでいたのですが、活版時代に発行されたもののようで、書体の大きさが非常に小さく、目が疲れて挫折してしまいました。