ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『早すぎる埋葬』ジョゼフ・ハンセン, 菊地よしみ訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1987→1989

 ホモセクシュアルの探偵デイブ・ブランドステッター・シリーズ全12作中の第9作目の作品。このシリーズ作品は、読んでいるときは俯瞰から細部まで流れるような風景と心理描写、デイブの抑制されたプロフェッショナルな行動、読者とフェアに情報提供する作者のスタンスなどが、非常に心地よいのです。フェアな作品というのはどういうものなのか知るにはうってつけです。しかし、過去の作品がどのようなものだったか思い出そうとしても、まったくできません。また、それが退屈と感じる人もいるでしょう。

 ホモセクシュアルエイズ患者が次々に6名刺殺される事件が起こった。その6人目の見知らぬ男の死体がデイブの自宅の前に置き去りにされており、そのそばにはデイブの名詞が置かれていた。デイブは、その男の義母に殺人捜査の依頼を受けたが、自らも刺されてしまう。

 本作は、作者がインパクトを与えるためか(エージェントなどに示唆を受けたか)、エイズ患者の連続殺人事件というショッキングな題材を扱っています。しかし、作者のフェアなスタンスが、題材の割にはショッキングに展開することを許しません。トリックは、あまり意外性がなく、というよりも、作者はまったく重きを置いていません。このシリーズは、すべて読み終えるつもりですが、本作は残念ながら☆☆☆というところです。エイズに罹患すること=死にゆく運命に乗せられてしまった時代のことを知りたい人にとっては、よい文献になっています。

早すぎる埋葬 (ハヤカワ ポケット ミステリ―デイヴ・ブランドステッター・シリーズ)

早すぎる埋葬 (ハヤカワ ポケット ミステリ―デイヴ・ブランドステッター・シリーズ)