ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門』ローレンス・ブロック, 田口俊樹, 加賀山卓朗訳,原書房,1981→2003.

 タイトルは、『ベストセラー作家入門』といい、何となく下世話なものを想像しがちですが、内容はそのようなものでなく、『ライダーズ・ダイジェスト』(アメリカの作家志望者向けの雑誌なのでしょうか?)に連載されたものであるように、作家志望者がプロ作家に悩みの相談に答えるといった、意外に実用的でありながら非常に愉しめるエッセイで、300ページ以上あって、ボリュームがあります。

 その連載がされた時期が、マット・スカダー・シリーズの『暗闇にひと突き』の出版前でだそうで、『八百万』でブレイクした作家だと思っていたのですが――実際にPWA賞最優秀長篇賞をとっていますしね――、アメリカでは既にエンタメ作家として普通に認められていたのですね。

 まえがきがスー・グラフトンで、「新作に取りかかるたびに必ず」本書に「眼を通していた」、「今でもわたしの心の平安に不可欠の書である」「どれほど心安らぐことか」というような絶賛の仕方をしていることからも本書の目的と愉しさが伺えるものです。

ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門

ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門

 本筋ではないけれど、クイーンについて、「初期は以下のように交替で二人で書いていた」とするっと説明していました。初めて知ったことで、ウィキペディアにもなかったけれど、本国では決定事項なのでしょうか?

 エラリー・クイーンの初期の小説では、著者のマンフレッド・B・リーとフレデリック・ダネイが交替でタイプライターのまえに坐ったので、主人公がある章でエラリーと呼ばれ、次の章でミスター・クイーンと呼ばれることが起きた。ほかの作家たちは別に共著ではないので、ファーストネームとラストネームをやたら行き来する必要はなかった。(228ページより)