ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『死刑囚』アンデシュルー・スルンド, ベリエ・ヘルストレム, ヘレンハルメ美穂訳,RHブックス・プラス,2006→2011

 スウェーデンストックホルムを舞台にしたミステリ。警察小説でもなく、サスペンスでもありません。ミステリというよりも普通小説に近いのですが、最後まで読めば謎を主体としたミステリとなっています。この作品はこの作者の初読です。

 ストックホルムの傷害事件で逮捕した男は、アメリカで未成年の娘に対する殺人によって死刑の宣告を受けて、刑務所で病死した男だった。その男は、いったいどういう方法で生きてストックホルムまで逃げて、普通に結婚して子供をもうけて暮らすようになったのか?

 アメリカの死刑囚の男、その妻、ストックホルム市警の警部たち、その家族、州知事の顧問であり殺された娘の父、刑務所の看守など、スウェーデン・アメリカのジャーナリストなど、膨大な関係者の多視点で物語は進みます。謎は関係者が次第に明かしていくというもので、推理的要素はあまりありませんが、最後に読者をひっかけます。☆☆☆☆といったところです。

 『ミレニアム1』『タンゴステップ』でも感じたのですが、その物語はひねくれることなくスムーズに進むため、非常に読みやすいものとなっています。英米ものと異なり、国内の読者にとってわかりきっていることをはしょっているのか不明ですが、味わいはシムノンに近いなあと。これがスウェーデン産ミステリの特徴なのでしょうか? 

 でも、同じテーマの『13階段』のほうが私は好ましいなあ、というのがホンネです。私はどうも、この手の作品を読んだとしても、死刑の賛否を考える気にならんのですよ。

死刑囚 (RHブックス・プラス)

死刑囚 (RHブックス・プラス)