ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『迷路館の殺人』綾辻行人,講談社文庫,1988→1992.

 本書は「新本格ムーヴメント」の第一人者、綾辻行人氏の第3作目の作品。私は新本格の流れは掴んではいたものの、決して系統的に読んでいない、決してよい読者ではありません。それは、このムーヴメントが起きた頃は、謎解きミステリから興味が離れていってしまったことにあります。同時期の、ハードボイルド・冒険小説のほうに気が移っていました。

 “迷路館殺人事件”というタイトルの推理小説が鹿谷門実という著者で出版された。あとがきによると、その殺人事件は実際に起こった事件で、鹿谷は実際にその現場に居合わせた人物だった。編集者のすすめで書かれたものだという。それを読んでいくところから始まる。推理小説界の老大家の宮垣葉太郎は、ある田舎に一つ一つの部屋まで迷路になっている迷路館という館に4名の推理作家、評論家、編集者などを還暦祝いのパーティーで招待した。しかし、皆が訪れたところで、宮垣は自殺したという。宮垣の遺言によると、肺がんで残りは少なくないので自殺した、自身の莫大な遺産は弟子に近い4名の推理小説家に相続させたいが、これから小説を書いて、編集者・評論家・マニアに読んでもらい、もっとも優れた小説を書いた者に譲るというのだ。そこで、4名が1人ひとり殺されていく……。

 本書の評価は難しく、加点法でしたら☆☆☆☆★ですが、減点法でしたら☆☆☆ともいえるもので、総合して☆☆☆☆といったところです。一度読み終えた後、最初から犯人は誰か、探偵は誰かを注意して字面を追っていくと、いかに注意深くフェアに書かれているかがわかります。しかし果たして本書は謎解きミステリなのでしょうか? 本書の魅力は、リアリティのない設定など、自らの弱点でさえもミステリの完成度の味方につけて、そして行きすぎた叙述は幻想になってしまうところにあると思います。

迷路館の殺人 (講談社文庫)

迷路館の殺人 (講談社文庫)