ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『ビブリア古書堂の事件手帖――栞子さんと奇妙な客人たち』三上延,メディアワークス文庫,2011.

 発売以来少しずつ発行部数を拡大したベストセラーシリーズ第1作目の作品。確かメディアワークス文庫の第1回配本作品の一つだったような気がします。メディアワークス文庫そのものは、アスキーメディアワークスライトノベルから離れてしまった、あるいは卒業した読者の受け皿、または少年マンガ家が青年マンガを描くように、ライトノベル作家ライトノベルではない作品を発表するための受け皿とした文庫群という印象を受けました。

 また、この文庫の特徴は、書き下ろしということです。これは、書き下ろし時代小説が売れているのと同じ現象を狙ったのでしょう。それが当たったわけです。本書に限っては出版社の戦略が当たった。まあ、文庫群トータルでプラスになっているかどうかはわかりませんが、このまま成長すればよいのでしょう。

 内容といいますと、ある夏の暑い日、23歳男性の五浦大輔は、母親から祖母のもっていた漱石全集の第八巻『それから』がどのくらいの価値があるかどうか調べてほしいと依頼された。その本には、不明なサインが書かれていて価値がありそうだったからだ。大輔は、高校時代から何となく気になっていた古書店「ビブリア古書堂」に持ち込んでみると、店番をしていた若い娘が、査定は入院している店長しかできないという。その入院先を訪ねてみると、高校時代からお店で静かに本を読んでいた黒髪の女性だった。その女性――栞子は、本とサインを見て、本物のサインでないと解説していく――。

 本を読むことができないというワトソン役の若い男性、活字中毒者のホームズ役の若い体力のない綺麗な女性という設定、北鎌倉の古書店という舞台、大げさでない静かに丹念に語られるお話、推理するものは本にまつわる物語という本好きにはファンタジーともいってもよいでしょう。また、4つの連作短篇で体力がなくても読み上げることができます。ミステリとしてでしたら、良くもなく悪くもなくですが、やはりキャラが魅力的なので☆☆☆★というところです。