ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『ブリリアント・アイ』ローレン・D・エスルマン, 村田勝彦訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ1475,1986→1989.

 私立探偵エイモス・ウォーカー・シリーズ第6作目の作品。本書の訳者あとがきによると、アメリカ本国ではロバート・B・パーカーが「クラシックな私立探偵」ぶりにあると言及するぐらい人気があるらしい。しかし日本ではあまり翻訳されなかったということは、あまり売れなかったのだろう。

 とにかく前作の『シュガータウン』でも感じたことですが、エルスマンの文体は読みづらい。何故読みづらいのかと本書を読みながら考えたのですが、主人公のキャラが立っていないとか、ストーリーがつまらないとか言う前に、文章ごとに描写と行動とストーリーというように役割が分けられていることにあるのだと思われます。このようなスタイルはあまり見られないので、慣れるまでに時間がかかります。これが日本で人気が出なかった理由なのではないでしょうか。

 ――この対照的なスタイルに、ジョセフ・ハンセンが挙げられるでしょう。ハンセンが全作ほぼ翻訳されているのは、文体に理由があると思います。

 本作のストーリーは、私立探偵エイモスのもとに古い友人のコラムニスト・バリーの妻がバリーと離婚したことを告げるところから始まる。エイモスはバリーをバーで見つけたが、バリーは泥酔していた。傷ついていたバリーをエイモスは介抱した。そのひと月後もう一度バリーを訪ねると、集中して長篇ノンフィクションを書くため長期の休暇をとるといった。その一週間後、ニューズ社の弁護士が、バリーの記事が訴えられたため失踪したバリーを探すよう依頼してきた。エイモスはバリーが残したメモをもとに居場所を探していくのだが……。

 キャラクター、テーマ、エンディングの意外性など悪くはないと思うのですが、ストーリーの運びが唐突で、章の最後まで読んでから、もう一度最初から読まないと理解できない語り口調がストーリーの理解のハードルになっています。たとえば、オープニングなど最後まで理解してから読むと余韻があるのですが……。語り口調が命のアメリカで人気があるのかが不思議です。

 本書はおそらくは、エイモス版『長いお別れ』であり、それを越えようと試み、バリーのキャラクター、犯人像の独創性、エイモスの役割など、ある意味成功していると思うのですが――というように悪くない作品なのですが、プラスよりマイナスが多く、☆☆☆というところです。

ブリリアント・アイ (ハヤカワ ポケット ミステリ)

ブリリアント・アイ (ハヤカワ ポケット ミステリ)