ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『人質カノン』宮部みゆき,文春文庫,1996→2001.

 宮部みゆき氏の初期短編集。「人質カノン」「十年計画」「過去のない手帳」「八月の雪」「過ぎたこと」「生者の特権」「溺れる心」の7つの短篇が収録されています。

 クライムミステリではなく日常ミステリが主でトリックや謎に重きが置かれておりませんが、出来事によってキャラクターの心情にどのように推移していったか丁寧に書かれています。主人公が新聞や友人の伝聞などで事件の内容を知って、お話はここで終えるはずではないのか、まだ読ませるのと感じるのですが、結果的にエピローグ的な付け足しが本書の短篇を他と異なるものにしていることがわかります。

 この丁寧というのがポイントで、ほかの作家では見られません。このように平凡な心の動きだけで読ませるのは、スティーヴン・キングエド・マクベインぐらいでしょう。まさしく非凡な傑作短編集であり、☆☆☆☆というところです。

人質カノン (文春文庫)

人質カノン (文春文庫)