ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『社会を変えるには』小熊英二,講談社現代新書,2012

 著者の小熊氏は経歴をみると、東大農学部卒後、出版社勤務の後に、大学院に入ったと記述されています。人文系マイナー出版社かなと予想していましたが、ウィキペディアに公開されていましたね。ある意味王道ですね。大学院に入り直した編集者を二名知っていますが、そういうのって多いのですかね。他に出版社を辞めた者としては、専門学校に行って専門職になった者、編集プロダクションを立ち上げた者、フリーの編集者になった者ぐらいですか。私が務めているところは、営業に移動しても、そのまま在職する者が多いですね。

 さて、本書ですが、「社会を変える」という大変抽象的なことですが、その方法論を具体的に述べる前に、どのようにして社会は変わっていったか、歴史的、社会構造的、思想的な視点から述べています。

 なんと言ったらよいのか、全体的に偏っているように思いました。まるで社会を変えるにはデモを行えばよいといっているかのような記述です。他にも様々な方法があるのでは、ということと、なぜ社会を変えるのは難しいのかを記述してもよいのではと思いました。

 いや、著者はそのようなことは承知の上で執筆しているのは分かります。あくまでも個人に何ができるかに特化しているからです。そこを書かなければ、前に進むことができないからでしょう。

 「社会を変える」という意味では、私は湯浅誠氏がネット上で発表した、「内閣府参与辞任について」(http://yuasamakoto.blogspot.jp/2012/03/blog-post_07.html)も読んでみると、『社会を変えるには』のその後が具体的に表現されており、非常に有用です。この湯浅氏の辞任の挨拶文書は、現代の民主主義の特徴と弱点、どうしてドラスティックに社会を変えることができないのか、が示されており名文であり必読です。誰もが良い社会にしたいと動くと誰にとっても中途半端にしか満足できない社会になってしまうことが分かります。

 本書は、行動をしたいと思わせてくれますし、そして、その先を知りたい気分にさせてくれます。そんな本です。

社会を変えるには (講談社現代新書)

社会を変えるには (講談社現代新書)