ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『六人目の少女』ドナート・カッリージ, 清水由貴子訳, ハヤカワ・ポケット・ミステリ, 2009, 2013

 2009年刊行のイタリア産サイコミステリ。ヨーロッパ各国で数々の賞を受けるなど評価を受け、ベストセラーになり、23カ国で刊行されたらしい。作者のドナート・カッリージは映画・テレビなどの脚本家になり、本書で作家としてデビューを果たしたとのこと。翻訳者あとがきによると、大学で法学を専攻して、イタリアで有名な連続殺人犯をテーマにした卒論を書いたというのがよくわからないけど、刑法なのかな?

 1週間のうちに5名の10〜13歳の少女たちが次々に失踪した。大事件として報道され学校が休校するなどされ、警察も大捜査をしいたが見つけられなかった。その17日後、国道沿いの深い森のなかで、6本の少女の切り取られた左腕が埋められているのを犬が発見した。DNA鑑定をしたところ、5本は失踪した少女たちのものだった。

 ロシュ警部を中心に犯罪学者のゴラン・ガヴィラ、残虐犯罪を担当する部署である連邦警察行動科学の捜査官たちは、子どもの失踪を専門とする捜査官のミーラ・ヴァスケスの協力を仰いで、犯人を追う。ミーラはもう1人の少女は、その中の1人を知っている人間であると推理したのだが、犯人は遺体を一人ひとりずつ発見させ、捜査は混乱してしまう……。

 冒頭から、どこかアガサ・クリスティを連想させる謎解きミステリの定型通りの謎が提示されます。大勢に監視されているところに死体が放置されるなど、さまざまなガシェットが詰め込まれており、愉しい作品となっています。作者の目論見(もくろみ)は、恐らくはクリスティのサイコ的部分の提示+新しいサイコミステリであり、成功しています。わたし的には、結果的に謎解き要素を排除することになっているのは残念です。意外な展開が繰り出されるのはよいのですが、前振りがまったくないんだもんなあ……。

 はっきりいってしまえば、日本にもあるミステリ的要素があって面白ければいいじゃんというポスト新本格的なエンタメで、人間を描こうなんて少しも意図がありません(あったとしたら中途のあの元修道女のスーパーナチュラル的展開はありえない)。謎の提示が非常に独創的で面白く、まあこの分野が好きな人には必読と思わせ、☆☆☆★といったところです。犯人像を知って、読んで怒る人も多いだろうなあ。映像になれば伏線もきちんと出されるから、面白くなるでしょうね。

六人目の少女 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

六人目の少女 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)