ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『キャサリン・カーの終わりなき旅』トマス・H・クック, 駒月雅子訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2009,2013

 クックの第24作目の作品。実は私はクックの筆致が苦手です。描写が薄ぼんやりしていて雑踏の中を歩いているかのように感じます。それでも手に取ってしまうのは、一瞬風景がグルリと回転する瞬間を見せてくれることがあるからです。本書もそうならばよいのですが……。

 旅行作家のジョージ・ゲイツは7年前に8歳の愛する息子を誘拐されて殺され、息子を忘れることができず苦しんでいた。新聞社の記者に転身し、ある日バーで飲んでいたところ、元州警察の失踪人捜査課のアーロウに興味をもち取材をした。ふと彼から20年前に詩人で作家のキャサリン・カーという31歳の身寄りのない女性が失踪したまま未解決であると興味深い話を聞いた。キャサリンに興味を持ったゲイツは、キャサリンの作品を借りて読み始める。と同時期に、早老症の12歳の少女アリスがもうじき老衰で亡くなるという話が持ち込まれ、取材を行った。

 そのあとゲイツと早老症で知識欲が旺盛で聡明なアリスは、キャサリンの小説を詩を少しずつ読み進めて、キャサリンはいまどうなっているのか推理をしていきます。それは作品中でたびたび、ネロ・ウルフとアーチ―・グッドウィンのようだと2人自身に言わせるほどです。次第にゲイツの息子の未解決の殺人事件、キャサリンの小説の内容が次第にあるキーワードを介して重なっていきます。ついにゲイツは現実なのか幻覚なのかわからなくなるのです。

 読む前にクックの中の異色作でミステリらしくない、という情報を頭に入れていたためか、思ったよりはミステリ的要素が入っていますのでミステリ読者は安心を。また「グルリ」とした不安感も味わうこともできます。しかし『ローラ・フェイ』よりは少し落ちるということで、☆☆☆★というところです。

キャサリン・カーの終わりなき旅 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

キャサリン・カーの終わりなき旅 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)