ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『リハビリの夜』熊谷晋一郎,医学書院,2009

 『新潮45』で第9回新潮ドキュメント賞を受賞した自叙伝に近いノンフィクション。著者は脳性まひ者で身体の不自由をかかえ、東大医学部に入学、医師になった。現在は臨床を少なくし研究がメインなのでしょうか。

 まあ迫力のある内容で、自らの身体の動きと精神的な動揺、そしてエスといっていいのか分かりませんが、無意識までも冷静に引き受け、障害のない人=健常者にも追体験できるかようのような悪魔的な客観的視点で貫かれています。読書体験に例えていうのでしたら、海老沢泰久の『F1地上の夢』『美味礼賛』に似ています。

 また、人間の不可思議な現象を、理性でとらえる作業を示すとともに、それを突破しようとあらゆる仕掛けを施し、それに成功しています。途中で「これは障害者の『ヰタ・セクスアリス』なのだろうか」と思ってしまった時点で私は著者の策略にはめられていたのが分かりました。

リハビリの夜 (シリーズ ケアをひらく)

リハビリの夜 (シリーズ ケアをひらく)