ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『白い僧院の殺人』カーター・ディクスン, 厚木淳訳,創元推理文庫,1934,1977

 ヘンリー・メリヴェール卿のシリーズの第2作目の作品。処女作の『夜歩く』が1932年の作品ですから、カーの初期作といえます。カーの未読作は結構あり本棚に積ん読されているのですが、どれもが小さい活字であるため、なかなか手に取りにくくなっています。先日他の作品を読んだのですが、非常に読みづらく目が疲れてしまい途中で頓挫してしまいました。そんな中、本書はインクが太く読みやすそうなので、これなら大丈夫かもと再び手に取りました。

 ある雪の日、「白い僧院」と呼ばれる屋敷のそばにある別邸で、女優が撲殺死体で発見された。しかしその別邸の周り30メートル以内には、発見者以外の足跡が見られず、完全な密室ならぬ密邸だった。犯人はどのようにして逃げたのか?

 というような、ミステリ・トリック・クイズ集の模範的ともいえるような謎が提示されます。HM卿はその殺人事件の現場にいた甥のジェームズ・ベネットとロンドン警視庁警部のハンフリー・マスターズに呼ばれて、この殺人事件を捜査するが、もう一人関係者が殺されてしまった……。

 本書の魅力は、上記のような明確な謎の提示と解決だけでなく、アリバイや物理的な証拠によって、最後にHM卿が犯人を追い込むところです。しかし密室の状況を説明するとき、あまりにも偶然に頼った設定でそれで正解なの、無理があるんじゃないのと、もう一度確認してしまったくらいでした。

 それでも読み返すと、作者はHM卿の口を借りて「前にもいったが、もう一度いおう。この事件の核心は、殺人犯人がめぐりあった無類に幸運な偶然にあるのだ――」(266頁より)と読者に提示しています。あくまでフェアプレーなのです。が、しかし、犯人像が期待はずれでしたので、☆☆☆★というところです。

白い僧院の殺人 (創元推理文庫 119-3)

白い僧院の殺人 (創元推理文庫 119-3)