ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『イン・ザ・ブラッド』ジャック・カーリイ, 三角和代訳,文春文庫,2009,2013

 ジャック・カーリイの精神病理・社会病理捜査班(PSIT)シリーズ第5作目の作品。私はカーリイの中で『百番目の男』をベストとするとともに、オールタイム的にも高く評価しています。未だに犯罪者の動機のユニークさ+理詰め的な高さでは『百番目』以上の作品にはなかなか当たりません。カーリイには、それを期待して翻訳リアルタイムに読んでいるですが、本作はどうでしょう。

 カーソン・ライダーとハリー・ノーチラスは夜明けに釣りをしていたところ、生後半年の赤ん坊を乗せて漂流しているボートを拾った。そのボートがどこから来たか潮の流れなどから辿っていくと、焼け落ちた家と銛を腹部に刺した死体を発見する。一方、パンティをはいて逆さづりの格好で、性的な暴力を受けたまま心臓発作で死んだテレビにも良く出演している宗教の説教師が発見された。事件の捜査担当となった二人は、赤ん坊泥棒は誰なのか、説教師の死は事故ではなく殺人なのか、それぞれ関係者に尋問をしていくのだが……。赤ん坊は病院から誘拐されたものだったことがわかる。さらに連続殺人が起きて……。

 謎解きミステリ的もカーリイって特異な作風をもっていると思うんですね。どう特異かというと説明しづらいのですが、読者を飽きさせたくないという意図なのか、お話の特性なのか不明ですが、ストーリーの流れを優先させるのですね。ですから、途中からこれは謎解きミステリだというのを忘れてしまって、お話を追ってしまうだけになって、最後に唐突に謎解きを披露するという感じです。でも、これは私の感想で他の人でそのように言っている人がいないので、不安なんですけど。

 本書もそのような作品だったのですが、まあ整合性がきちんとあり、もう一度最初から飛ばし飛ばしで読んでみても、伏線がきちんとはってあります。しかも結構早い段階で。まったく気がつきませんでした。さまざまな要素が最後にまとまっていくのは快感ではあったのですが、何というかストーリーが関連性がなく運ばれているような気がして、読んでいて散漫な感じを受けるので、少し減点して☆☆☆★というところです。カーソンやハリーのキャラが掴むことができないのもその理由の一つです。

イン・ザ・ブラッド (文春文庫)

イン・ザ・ブラッド (文春文庫)