本作は、宮部みゆき氏の代表作『模倣犯』の主人公のジャーナリストである前畑滋子の9年後のお話です。私は『模倣犯』をハードカバーの2001年発売当初に同僚に借りて読んでいるので、10年以上ぶりになります。
本書のオープニングから、主人公の前畑の前作の事件による心の傷の癒えてなさぶりが語られており、作者的にはこれがないと本作を書き進めることができないのだろうことは理解できるのですが、『模倣犯』の内容を「絶対悪の犯人であった」というぐらいしか覚えていない私には、うっとうしいなと感じました。
典型的な宮部氏の現代物で、『模倣犯』と同様に一つ一つエピソードとキャラクター描写を踏まえて、事実を一覧する方法を用いられています。人は誰でも多かれ少なかれ問題をかかえており、『火車』のように、たまたま状況や環境のために「罪」をかかえることがある人がいて、それをどういうことなのか、どのように感じるべきなのか、どのように対処していくべきなのか、どのように断罪するのか、を記していくことを目的にしています。そのためには、たとえ長すぎるという批判があっても、あえてその描写方法を選択しているのがわかります。
その工夫として、長い物語を読者に読ませるために、決して難しい用語、専門的な用語、凝った言い回しを用いることをせず、スピーディな文体を用いています。私も最初はゆっくり読んでいたのですが、ストーリーの進まないことにイライラしてしまい、途中からとばし読みに近い感じにしました。そうすると、そういえば『模倣犯』でも同じように読んだっけ、と思い出しました。
主人公の前畑が、ある婦人が亡くなった12歳の息子の描いた絵に死体らしきものが描かれていて、それが実際に起きた事件と似すぎているので調べてくれないか、と依頼するのですが、それを引き受けるまでの過程をきわめて慎重にリアリティを損なわないように記しています。それでも事件の内容を文章にしないという誓約は、それがなくては誰からも自供を出せなかったのでしょうが、ジャーナリストとしては、それはないのではないかと思いました。そのために前の事件から受けたダメージをこれでもか、というくらい説明したのでしょう。
そこから、事件の関係者に聞いてまわり、市井の一家で起きた、誰にでも起きうる可能性がある、悲劇の真相が浮かび上がります。このようなことが起きたら、あなたならどうしたのか、という問いかけがなされるような感じをもちました。そのようなことを考えさせる作品は希有ですが、やはり長すぎるということで、☆☆☆★というところです。
- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/02/10
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