ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『追想五断章』米澤穂信,集英社文庫,2010,2012

 本書は、大学休学中に古書店で働く大学休学中の青年を主人公にしたノンシリーズの謎解きミステリ。その青年、菅生芳光が店にいると、松本から来たという若い女性が、『壺天』という同人誌を探しているとお客としてあらわれた。

 その同人誌の世話人がその古書店に売った蔵書の中にあるのではないかという。芳光があっけなく探し出すと、その女性は、『壺天』に掲載されたショートショートが死んだ父の作品であり、父の遺品から全部で5つあってそれを探している、他にも探してくれないかと依頼してきた。比較的暇だった芳光はそれを引き受ける。

 そのショートショートは、5つの物語そのものは続きものではなく、別の舞台の別の作品となって、すべてリドルストーリーで終わっており、彼女の父の昔の殺人事件の真実を書いたものではないか、という謎が生まれてくるわけですが、読んでいくうちに、なんでこんな複雑な物語にするのだろうと思ってしまいました。

 謎解きの提示の仕方は『ラットマン』とは異なるのですが、読者の引っかけ方や過去の話が伝聞で解説されて、それを解決するプロセスが似ていて(この伝聞事件を解決する手法は『長いお別れ』のようです)、そうすると本作のお話の不自然さが目立ちます。かといって、つまらないわけではなく、☆☆☆★というところです。

追想五断章 (集英社文庫)

追想五断章 (集英社文庫)