ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密』トマス・H・クック, 駒月雅子訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2012,2014

 クックの27作目の新刊。以前も書いたと思うのですが、過去の出来事を探るというストーリーのためか、クックの描写法は独特で、何が事実で何が事実でないのか、一読では判断できず、読んでいる間中、真っ暗の闇の中を歩くような不安な思いをします。

 しかし、この「過去の出来事を探る」というのは、ミステリの定番であり、クックのみ頼りない感じがするのは、人物心理描写が多いクックの特徴なのでしょう。、

 ジュリアンという戦争・犯罪ノンフィクション作家がボートに乗って湖の上で、手首を切って、手を水面につけて自殺したところから始まります。ジュリアンの親友で文芸評論家であるフィリップは、ジュリアンが自殺した理由を、ジュリアンの妹のロレッタとともに探ることになってしまったのだが……。

 クックの過去作と同じように、まず謎があって、過去を探っていきます。フィリップがジュリアンとの在りし日を回想しつつ、ジュリアンが実は何をしていたのか、少しずつ事実をつかむと、さらに謎が生まれるような構成になっています。エンディングは、ジュリアンにとっても、フィリップにとっても、ロレッタにとっても、暴かれたくない事実を見つけてしまい、アイロニカルな悲劇で終わり、私にはなかなか良いものになっています。ということで、☆☆☆☆というところです。傑作というわけではないですが、読み応えある佳作ですね。

 クックの作品は、ポケミスに移ってから『キャサリン・カーの終わりなき旅』『ローラ・フェイとの最後の会話』と続いて読んできましたが、同じような主題でバリエーションをつけているのが興味深いですね。このくらいのレベルの作品を探すのは難しいものです。クックの過去作で読んでいないものが数作あるので、これから手にとってみることにします。