ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『偽りの契り』スティーヴン・グリーンリーフ, 黒原敏行訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1994,1996

 私立探偵ジョン・タナー・シリーズ第10作目の作品。この端正な私立探偵小説のシリーズもいよいよ残り少なくなってきました。孤独な探偵、消えた何か、正体が不明な依頼人、誤解を生じた人間関係、意外な結末に則っていて、私が求めているミステリそのものなのですが。

 本書は、前半で『熱い十字架』と同様に、「代理母」という社会的なテーマを展開していくのですが、突然途中からロス・マク張りの一企業の複雑な人間関係と因縁の世界に変わります。そこそこ意外な展開があり、中途の展開もスムーズで読ませてくれて、しかも最後のタナーの選択は興味深く、☆☆☆☆というところです。しかし、代理母の倫理的な問題まではきちんと踏み込んでいないのです。

 しかし、改めて本書の構造を見てみると『熱い十字架』と全く同じのエピゴーネンであることがわかります。『熱い十字架』ではマイノリティ差別、本書では代理母という社会問題を冒頭から中盤にかけてストーリーのフックとし、中盤から愛憎や金銭にまつわる複雑な人間関係とそれらから生じる殺人や誘拐などの犯罪、それを捜査するタナー、明かされる真実、そしてそれらを操る犯人など、すべて同じです。

 グリーンリーフは方程式のように物語を当てはめています。そして、その方程式が読み手としても好きなのでしょう。私もそうですから。しかし、例えば同じ社会的問題を扱ったリューインの『そして赤ん坊が落ちる』と較べてしまうと、グリーンリーフのほうが落ちるんですよねえ…。残念ですが。

偽りの契り―私立探偵ジョン・タナー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

偽りの契り―私立探偵ジョン・タナー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)