クール&ラム私立探偵事務所シリーズ全29作中第16番目の作品。刊行から50年以上経っても読みやすさは変わりません。翻訳がこなれているのと、この時代の特有の平仮名の使い方のためでしょう。この平仮名の使い方ですが、例えば以下のとおりです。この漢字の使用法は何が元になっているのか解説してくれる本はないのでしょうか。
- 「なにかこまつたことがおきても、だれも、女のところにはこないわ」と、よくバーサはいう」(7頁より)→なぜ「困った」「来ないわ」ではないのか?
- 「所長の名前が女だと、はずがしくなつて、そのままかえつていくにちがいない」(7頁より)→なぜ「恥ずかしくなって」「帰って」ではないのか?
さて、本書ですが、テキサスから来たカウボーイハットをかぶったコーニングという男が、ドラリイ・ウエルズという男の細君のイヴォンヌを探してほしいと依頼するところから始まります。イヴォンヌが土地を探していたのにもかかわらず、失踪してしまったというのだ。コーニングとイヴォンヌの関係をきちんと話さないが、ラムは早速ドラリイをたずねて、細君をさがしていると告げるのです。しかし、ドラリイ自身は調査のこと、さらに妻とけんかをして出て行ってしまってどこにいるのかわからないと不機嫌になります。
そこは郊外の住宅地で、ドラリイの家の隣に住む女性を訪ねると、その女性は、その夜に夫婦げんかの声が聞こえて、殴りつける音がしたかと思うと、静かになってしまった、その後にウエルズが何かを包んだ毛布のような固まりを肩にしょって、つるはしを車につんで、夜中に出かけてしまった、その2時間45分後に戻ってきたと話した。
しかし、それ以上のことは調査をしてもわからなかったラムは、調査を打ち切るように依頼人のコーニングに進言した。さらに、殺人が起きているかもしれないと、セラーズに電話をした。
その翌日、ドラリイのことを新聞で調べたバーサは、ラムにコーニングの調査を引き続き引き受けるようたきつけた。イヴォンヌはテキサスに住む叔父が遺した土地を相続したというのだ。イヴォンヌ失踪の原因がここになるのではないかと思ったラム、そして殺人の情報に心躍ったセラーズは、ドラリイの家に行くと、なんとイヴォンヌが戻ってきていた。殺人ではなかった、これから調査の協力はできないと怒るセラーズ。ラムは何かがかくされてりのではないかと調査を続けると……。
上記のようなあらすじの通り、訳のわからない理由による失踪調査から始まります。この時代らしい土地と石油の利害関係が絡んでいるわけですが、それだけではミステリと言うよりも陰謀物語という感じで、最後に死体が出てくるという、少し変わった構成になっています。セラーズを利用するために知らせたように、けっこう最初の方に、ラムは殺人が絡んでいると確信しているようですが、その理由がわかりません。とはいうものの、少し古典的なトリックを使用するなど、☆☆☆★というところです。
笑ってくたばる奴もいる (1959年) (世界探偵小説全集)
- 作者: A.A.フェア,田中小実昌
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1959
- メディア: 新書
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