ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『薔薇の名前』ウンベルト・エーコ, 河島英昭訳,東京創元社,1980,1990

 『東西ミステリーベスト100』http://d.hatena.ne.jp/hoshi-itsu/20121125 のとき、未読をチェックしたのですが、本書だけが読むつもりだったのに読んでいない作品でした。『フーコー』もすぐに文庫になったから著者が拒否していないから、本書も文庫になるのを待っていたのですが、いつになっても文庫になりません。何でですかねえ。未だに単行本でも売れているのでしょうか。

 舞台は1300年代の中世の北イタリアの修道院。フランシスコ会修道士バスカヴィルのウィリアムとベネディクト会の見習修道士メルクのアドソが訪ねた。修道院の院長が、文書館の写本に挿絵を描いていた細密画家の修道僧が、塔から断崖の底で死体になっているのを発見され、自殺と思われた。しかし院長は飛び降りたと思われる塔の窓が開いていなかったことから、この謎を解明してほしいと依頼したのだった。二人は修道院の関係者を訪ねるのだが、甕(かめ)の中に頭から突っ込まれて両脚だけが突き出ていた死体が見つかる。さらに殺人と思われる事件が起こる。

 映画を昔みていたので、犯人の動機は覚えていたのですが、それ以外は忘れてしまっておりました。本作品のトリックを成り立たせるためには、執拗な書き込みが必要でした。このトリックを味わってしまうと、毒の実を飲んでしまったかのような、敗北感を味わいます。書き込みが過剰で、読み進めるのは辛かったのですが、修道院の文書館という舞台、書がどのようにできあがって、どのような存在だったのかという解説、事件が黙示録的な物語にからまるサスペンスなど面白く、☆☆☆☆というところです。

薔薇の名前〈下〉

薔薇の名前〈下〉

薔薇の名前〈上〉

薔薇の名前〈上〉