ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『1922』スティーヴン・キング, 横山啓明・中川聖訳,文春文庫,2010,2013

 2010年に原著が発行されたキングの第3中編集を日本版では分冊して発行されたもの。本書はその前編でキングの中短編2作「1922」「公正な取引」を収録。

 「1922」は、タイトル通り1922年に、妻を殺して井戸に遺棄した農場主の男が罪を告白するお話で、殺人に至る過程、その後の男と息子の転落の過程が、リアルとスーパーナチュラル的な要素が絶妙に絡み合って、独特なホラーになっています。読んでる最中に何度も『シャイニング』やパトリシア・ハイスミス、『怒りの葡萄』が思い浮かびます。

 余談ですが、この時代の小説や映画を現代の作家が作品化するときは、だいたいのものが『怒りの葡萄』を参考文献にしていますよね。よっぽどアメリカ文学で影響力があるんでしょう。

 もう一つの作品の「公正な取引」もまあまあですが、「1922」が素晴らしく☆☆☆☆というところです。私は最近はキングを描写過剰で忌諱していたのですが、本書はそのようなことがなく、スムーズに読むことができました。長篇のような濃厚なストーリーではなくアレンジしやすいので、映画向きではないでしょうか。

1922 (文春文庫)

1922 (文春文庫)