ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

評価が分かれるのが理解できる――『罪の段階』リチャード・ノース・パタースン, 東江一紀訳,新潮文庫,1992,1998,☆☆☆★

 『推定無罪』『法律事務所』が翻訳されたとき、リーガル・サスペンス・ミステリが流行って、多くの作品が翻訳されましたが、本書はその中の一つでした。翻訳時期が各種ベストテン企画の投票時期に都合がよくなかったため、各書評では評判がよかったにもかかわらず、ベストテン企画で上位にランクされることがありませんでした。そういうことは知っており、購入してはいたのですが、多いページ数のため積ん読になっておりました。

 読んでみると本作が書評家が絶賛する理由がわかります。また、一般のミステリファンを捕まえることができなかった理由もわかります。なんと言ったらよいか、悪く言ってしまえば、中途半端なのです。

 主人公の弁護士のところに、元妻でテレビのニュースキャスターの女性が、ノンフィクション作家の男性からホテルの一室でレイプされそうになり、そのとき正当防衛で拳銃で殺人をしてしまったので、弁護を依頼した。検察は、例えば被害者の爪でひっかかった傷が死後のものだったことなどから、正当防衛ではなく計画殺人であると訴えた。主人公の弁護士は元妻の証言に少し矛盾するところがあるのだが……。

 正当防衛か否かを、どちらが事実なのかを証明するのですが、双方の主張する弁を聞いていく内に、読者は事実が重要なのではないと思わせます。

 それにもかかわらず、どこか次々と事実を繰り出されるドラマのような軽い展開、とくにエンディングの選択は、正義が勝つを体現したいかにもアメリカンエンターテインメントなんです。またミステリ色があまりないところが、☆☆☆★というところです。それでもこの半分の長さでしたら☆☆☆☆となるでしょう。ネタバレになってしまいますので、あまり踏み込めないのですが、人の絆とか勇気に感動したい人にとっては、うってつけの小説です。本屋大賞読者向けですね。

 しかしなあ、本書をミステリとして評価する評論家は、やはり私には合わないなあ。このような作品はミステリとしてはダメなんだと、けれど感動するよ、と評してほしいものです。

罪の段階〈上〉 (新潮文庫)

罪の段階〈上〉 (新潮文庫)