ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『もう年はとれない』ダニエル・フリードマン, 野口百合子訳, 創元推理文庫, 2012, 2014――ナチもののコミック・ミステリ

 一昨年、翻訳ミステリでなかなかの評価を受けた、87歳の元敏腕刑事の老人が主人公のハードボイルド・ミステリ。というよりも、ナチもののコミック・ミステリでした。

 元殺人課刑事のバック・シャッツは親友から臨終のときに、二人だけで昔の千艘の話としたいと呼ばれた。その親友はナチ親衛隊の将校で、二人が1944年に入れられた捕虜収容所の責任者のジーグラーを戦後、東西ドイツの検閲所で見かけたと話した。そのときジーグラーは金の延べ棒をたくさん車の中に抱えていて、親友は金の延べ棒を1本もらって見逃した、悪いことをしたという罪悪感でいっぱいだという。死んだはずだと思っていたバックは探す気はなかったが、孫のテキーラにそそのかされて、ジーグラーを探すことになったが、手がかりはない。しかし、親友は娘やその夫にもジーグラーと金の延べ棒の話をしていて、バックに探すよう依頼してきたのだが……。

 老探偵というと、『オールド・ディック』以来ですねえ。『オールド・ディック』はたしかペーパーバック賞ができたばかりの頃に受賞して、ペーパーバック賞のほうが面白いんじゃないのと思われるぐらい良い作品でした。ストーリーはまったく忘れてしまいましたが。

 そういう意味ですが、本書は徹頭徹尾うまくいっていないと思います。87歳という設定に対して、現代のテクノロジーに乗り遅れた高齢者というところばかり描写しており、経験を積み重ねてきた、ある種の重みを感じることができません。単に身体能力を失った高齢者というだけです。その身体能力の喪失も、特に特徴あるものではなく、少し詳しい新書に書いてあることばかりです。作者は老人を軽んじているのではないかと、読んでいる途中からイライラしました。

 ストーリーは、経験と度胸のある老探偵のシャッツとテクノロジーを使いこなす若探偵のテキーラというコンビで探偵が、(少し笑いますが)金の延べ棒を探すために、二人が協力し、その関係者に連続殺人が起こります。犯人は少し意外で、昔の謎解きミステリを思い出しましたが、ちょっと無理があるんじゃないのと思うところで、☆☆☆です。

 また、医療・福祉関係の専門用語の間違いが散見されていて、きちんとした校正がなされていません。例えば「血管外科医」「認識障害」「抗凝血剤」などです。また最初から最後まで、看護師ではなく看護婦としており、訳者が高齢者は新しいものを受け入れないという偏見からなのか、故意に看護婦としたと記していますが、これはおかしいです。そういう意味で残念な作品でした。医療関係の専門用語のチェックなど私のところへ依頼していただければ可能ですよ。  

もう年はとれない (創元推理文庫)

もう年はとれない (創元推理文庫)

 

  『オールド・ディック』は写真も出ないんですねえ。拳銃をもった後ろ姿の老人で、二流感があって、かっこよかったですね。

オールド・ディック (ハヤカワ・ミステリ文庫 90-1)

オールド・ディック (ハヤカワ・ミステリ文庫 90-1)