ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『さよならの手口』若竹七海,文春文庫,2014――事件の触媒としての探偵

 昨年、各種ベストテンで好評を得た女性の私立探偵を主人公にした小説です。なかなか私立探偵小説は評価を得ることが難しいのですが。読んでみて、なるほど、と思いました。

 読者と生活レベルが等身大的であり、欠点もあるけれど基本的に明るい、好感を抱く主人公。これはミステリ的には難しいし希少です。キンジー・ミルホーンを思い出させます。

 定番の一つとも言える末期の金持ちの依頼者の出現、いくつもの提示される謎、ガードナーのような主人公の行動とともにスピーディに展開される事件、謎解きミステリ的なトリックなど、日本のミステリには珍しい要素がたくさん散らばっています。

 事件と触媒としての探偵という設定は、ハメットやチャンドラーではデビュー作から、そうだったのに、考えるのが難しいのか、それとも読者受けが悪いのか、なかなか見られないんですよねえ。本書では、それを自然に展開しています。

 しかし、欧米でのミステリではみられない、主人公の推理についての独白がきちんと書かれています。普通は削除してしまいますが、それでも読者に謎を与え、引き込む力となっていて、非常に面白かったです。

 まあ、これだけの作品でしたら、☆☆☆☆と高い満足度ですです。私としては、いくつもの事件が最後に絡み合って行ければ、そうすればリアリティは減るけど、神話的な位置にたどりついたのに、と少しザンネンでしたが。

さよならの手口 (文春文庫)

さよならの手口 (文春文庫)