アメリカの新人の処女作。もっともケプネスは短編を多数発表していたり、雑誌やwebで記事を書いたり、放送作家や映画監督をしたりなど、多才な生きの良い人物のようです。年齢もわからないしね。本書は新聞の書評で、ストーカー小説だけど普通のものとは少し異なる、と書かれて気になったので手に取りました。
いかにもアメリカのポップカルチャー好きのオタク小説で、キングやティム・オブライエンなどの小説や『ハンナとその姉妹』などの映画、あと私にはわからなかったけれど音楽などについて、主人公とその友人たちが、「あの作品はいいね」というように言及しまくります。そのあたり、ちょっと興味深い。
思慮深い人の評論とかは訳されるけど、本書のキャラクターのような若い人たちがどのようにポップカルチャーを愉しんでいるかは、よくわからないしね。まあ英語が読めれば、ネットなどで読むことができるのだろうけど。本書で読むかぎりでは、まあ日本のオタクと変わらない。4chそのまま。
キングはいまだにベストセラー作家として売れているのもわかる。発売日に書店の店頭でごった返すなんてね。日本で言えば、新作が発表される度に、ベストセラーになり、評論で取り上げられる村上春樹か。エンタメでは宮部みゆきになるのかな。
本作品の主人公のジョー・ゴールドバーグは、ニューヨークの書店の店員で本好き。けっこう電子書籍否定派。ジョーが客として来た女性に一目惚れするところから始まる。その残されたサインから、女性の本名、Twitter、SNSを割り出して、作家を志望する女子学生であること、日常どのように過ごしているかに集中するようになった。ジョーは、Twitterなどによって女性にコンタクトをとって、付き合うのようになるのだが……。
これらを主人公の「ぼく」が「きみ」に語りかける文体で、最初から最後まで続きます。そのため、「ぼく」の心情に重きを置くことになり、行動の描写がおろそかにならざるを得なくなり、シーンの境目があいまいでちょっとわかりづらいところがあります。
ジョーは異常なんですが、解説の方も書かれているとおり、普通のストーカーとは異なり、女性とのつきあいにおいては、リア充な感じ。そこに普通の人にはリアリティを感じるのでしょう。エンディングも、そこに重点を置いています。エンタメや勧善懲悪などクソ食らえなんですね。
リーダビリティが非常に高く、翻訳書とは思えない普通の日本語で、あっという間に読み切ることができます。キングのようにミステリと言うよりも普通小説に近い感じ。この嘘をつききれないのは作者の気質であり誠実なんでしょうね。というわけで、☆☆☆★というところです。