ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『ひきがえるの夜』マイクル・コリンズ,木村二郎訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ1368,1970,1981――テーマは現代にも通じる

 隻腕の私立探偵のダン・フォーチューン・シリーズの第3作目の作品。隻腕の設定は意味がないと思えるほど、本格的ハードボイルド小説です。

 リカルド・ヴェガは大物俳優で演出家でプロモーターでもあった。ヴェガの舞台で女優のマーティーは役を得たがヴェガは寝るように仕向けてきた。マーティーは友人で私立探偵のフォーチューンにヴェガにそれには応じないと脅すよう依頼した。ヴェガのオフィスに行ったフォーチューンはヴェガのマネージャーと用心棒に追い出された。そのとき、同じようにヴェガに追い出された、豊満な体が印象的な女がいた。

 その二週間後、その女アン・テリーが失踪したというニュースが新聞に掲載されていた。アンのことが気になっていたフォーチューンは、アンの姉であるサラにアン探しの手伝いをしたいと申し出た。サラは金曜日から日曜日にかけてアンが自分の部屋に戻っていないので、警察に通報したという。フォーチューンはアンの部屋に行き家捜しをしていると、ヴェガの用心棒のショーン・マクブライドが家捜しに来て、警察に不法侵入で連行された。

 フォーチューンはアンのパートナーのシオドア・マーシャルを訪ねた。マーシャルはアンと出会うまでサラと付き合っていた、アンは同じ役者仲間であること、そしてサラはアンのことを心配していないと思い、サラが探偵を傭っていたことに驚いたと言った。そして、アンの失踪に自分は関係がないと主張し興味がなさそうだった。その時、劇団管理人のフランク・マデロが訪れた。どうも両刀遣いらしい。

 フォーチューンは酒場で女友だちのマーティ-と飲みながら、アンのことを考えた。十四歳で農夫と結婚、劇場の夢を見て、ニューヨークに来て、何も持たない娘が生き延びる方法を学ぶ。ハスラー(娼婦)として、一方で夢を実現するための女優として働いていた。フォーチューンはアンの収支の控え、アパートをもう一つ借りていることから、もうひとり誰かいるのではと考える。マーティーは夫ではないかと示唆すると、フォーチューンはサラに電話した

 フォーチューンはアンのアパートに侵入し、買い物伝票の送り先住所から、もう一つのアパートの住所を知って、そこへ向かった。そのアパートには、二人の姉妹がいて、父親は不在、母親はベッドで寝ているという。その母親はアンで、2日間寝たままだという。アンは死んでいたのだ。

 ニューヨーク市警の警部のガッゾーによると、アンが死んだ理由は、中絶の手術を受け、処方を受けた鎮痛剤を飲み過ぎたことだった。そのガッゾーのところへリカルド・ヴェガが訪れ、フォーチューンがガッゾーを陥れるためにアンの失踪を企んだと訴えた。が、そこでアンの死とその事情を聞かされたヴェガは、深く息を吸い込み両手を目に当てて、アンのことが好きで付き合っていたこと、子どもの父親かもしれないこと、仕事のパートナーとしたかったができなかったこと、そしてアンがヴェガを子どものことで金をゆするつもりであったことを告白した。

 アン・テリーだけが二重生活を送っているのではない。声、口調、言葉遣いがまるで違っている。二人の男、すなわち口八丁の女たらしと、真剣な芸術家。今しゃべっているのは芸術家のほうだ。知られている顔もそっちなのだろう。(69頁より)

 フォーチューンはシオドア(テッド)・マーシャルを探すと、同じアパートの地階に住んでいる劇団管理人のフランク・マデロの部屋で寝ていた。テッドに詰問したがテッドは何も知らないと答えた。 

 ちょっと主人公のフォーチューンのモノローグが場違いなシーンもありましたが、解決篇のたたみかけ方、意外性のある展開と苦い結末は素晴らしく、☆☆☆★というところです。もう少しキャラクターの出し入れや、文章にロス・マクのようなわかりやすさがあれば、ストーリーそのものは社会性もあり、現代でも読める作品として傑作になっていたはずです。

 ――そしてその文章は、翻訳者のせいではないでしょうか? あまりにも原文にある文字だけを翻訳している感じがします。そのため英語独特の約束事を翻訳していない。他の人が翻訳をしていれば、もっと評価が高いはずです。

 これを最近低迷している『相棒』の原作にしてみてはどうですかねえ。きっと傑作になると思いますよ。