ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕』ジョーゼフ・キャンベル, 倉田真木, 斎藤静代, 関根光宏訳,ハヤカワ・ノンフィクション文庫,1949,2015ーー脳内にさまざまな想像がかけめぐる

 『スター・ウォーズ』に影響を与えたとして知られるようになった論文で,神話において英雄はどのように航跡を辿るのかについて語られています。確か「イニシエーション」(通過儀礼)という言葉は、本書から生まれた(or広まった)ような気がします。私も書名を知ったのは大学時代である1990年代でしたが、同じ著者の『神話の力』を読んだので、無理に手に入れることはないだろうとスルーしていました。古本屋で見かけたこともありますが、上下巻が各2000円オーバーでしたので……。

 しかし今回、ハヤカワ文庫で文庫化されて、たまたま書店で立ち読みしたところ、「あれ? 想像していたのとは違う。面白いかも知れない」とすぐに購入しました。読み始めると、非常に具体的な内容で面白い。おそらく、私のように、本書を要約したものを読んで、読んだ気になった人は多いと思いますが、そういう人ほど読んでみて、「損はない」でしょう。

 帯のジョージ・ルーカスの「出会ってから30年というもの、この本は私を魅了し、インスピレーションを与え続けてくれている」というコメントは、まさしくその通りの内容だと感銘を受けます。

 読んでいると、さまざまなことが頭の中を駆け巡るため、読み飛ばすことができないのです。したがって、非常に時間がかかりました。とにかく本書を読んでいると、脳内にさまざまな想像がかけめぐり、ドーパミンが出ているのではないかと思うほどです。例えば以下のところ。

 これこそ神話の基本的なパラドクス、つまり二重焦点の逆接である。宇宙創生円環の始まりとまったく同じように、「神は関与しない」と言えるが、同時に「神は創造主であり、保護者であり、破壊者である」とも言える。ゆえにこの決定的な瞬間、すなわち一なる者が砕けて多数になるこのとき、運命は「たまたま起きる」が同時に「もたらされる」のだ。発生の源から通してみれば、世界は存在へと流れ込み、爆発し、そして霧散していくもろもろの形態の荘重な調和である。(下巻246頁より) 

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)