ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『欲望の爪痕』スティーヴン・グリーンリーフ,黒原敏行訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ1662,1996,1998――元恋人の婚約者で失踪した娘を捜す

 私立探偵ジョン・タナー・シリーズ第11作目の作品。本作品の特徴は、元弁護士の普通の紳士的な私立探偵がコミュニケーションを武器に丹念に、依頼人の依頼に対して追っていくところでしょう。舞台は裏社会との関わりもなく、ある意味において、非常にリアリティがあります。本作は、それが体現されたものです。

 ――ほかにキャラクターについて、興味ある人はいるのでしょうけど、私は事件に強く感情的にコミットしない、プロの私立探偵としてのタナーに対して好ましく感じています。

 タナーの元秘書のペギーから、これから結婚する男の娘のペギーが失踪したので、差がしてほしいと言う依頼があった。タナーが調べていると、ペギーはヌードモデルをしていた。

  タナーは、ニーナの部屋から仕事関係、友人関係を丹念に辿っていき、中途でニーナの写真を撮っていたカメラマンが殺されます。これが、タナーが発見したのではなく、警察に聴取を受けたり、新聞報道で知らされるので、あまり緊迫感がありません。結局、ラストはあまり意外な展開ではありません。というわけで、ミステリ的には☆☆☆というところです。

 ただし、この時代の空気を知るには非常によいテキストです。たとえば、ペギーは脅されていたのですが、それはセックスシーンのアイコラによってでした。今では、アイコラの可能性が考慮され証拠になりえないのは普通ですが、当時はそのような技術が知れ渡っていないのですから、効力があったわけです。当時としては最先端だったのでしょう。

欲望の爪痕―私立探偵ジョン・タナー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

欲望の爪痕―私立探偵ジョン・タナー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)