ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『緋色の囁き』綾辻行人,講談社文庫,1993,1997ーー名門女子高の寮の連続殺人事件

 綾辻氏の第4作目の作品(出版リストが出ているあとがきは便利だね)。本書が出版された当時、私は社会派には興味を持っていなかったものの、新本格派には入れ込んでいませんでした。それでも、『館シリーズ』の謎解き派が、本書のような謎解きとは別のミステリを書いたことは知っていました。

 古くからある名門の女子高に、和泉冴子は転校してきた。全寮制で寮に入ったのだが、同室のクラスメートが、寮内の開かずの間で焼死した。自殺とされたが、彼女の生前の様子から冴子にはそう思わなかった。その後、刃物によるクラスメートに対する連続殺人が起こった。いったい誰が犯人なのか?

 「緋色」を冒頭から至るところに挟み込み、それが不気味な雰囲気を形作るとともに、伏線になっています。このような伏線の張り方は、私の好みではないのですが、最後に暴かれたところで、なるほどと思います。最初の殺人は、ひょっとしたらアレかなと思っていたのですが、違いました。謎解き好きに対するうまいミスリードですね。犯人像も、実は最近読んだ海外ミステリと偶然似ていて、おそらくクリスティとは異なる犯人像の作成を目指していたところ、その方向性が同じになったということでしょう。

 一つの殺人事件がを目撃した人物が、それに触発されて、殺人を行うという、第一の事件とそれ以降の事件の犯人がことなるという仕掛け、また、その触発が人間の狂気に呼応した結果であることなどは上手いと思います。この触発シーンは映像化したら非常に盛り上がるでしょうね。

 しかし、この名門の女子高という舞台、女子高生ばかりの登場人物、魔女をモチーフにした話の展開が、どうにもこうにも私には合わなく、前半はちょっと退屈で時間がかかってしまったこと、またあまりにも精神障害に頼ったストーリー展開に共感できないため、☆☆☆★というところです。このような雰囲気が好きな人はたまらないんでしょうね。

 それにしても、綾辻氏の作品を読むたびに、なぜ綾辻氏は名探偵を出さないのですか、という疑問が浮かびます。やはり、リアリティを生じさせるためなのでしょうか。綾辻氏以降の新本格派がすんなりと名探偵を登場させてるんですが……。 

緋色の囁き (講談社文庫)

緋色の囁き (講談社文庫)