ハイスミスの長編22作中の11作目の作品。この前作が『殺人者の烙印』、この後作が『変身の恐怖』でハイスミスが絶好調だった頃。といっても、リストを見ても不調だった頃ってないよね。本作もとても1960年代とは思えない現代サスペンスミステリ。先が読めない展開というか先読みがことごとく外される。
画商のレイ・ギャレットは、自殺した妻のペギーの父であるコールマンと葬儀のあとにローマで会った。すると突然コールマンはレイを拳銃で撃って逃げ去った。幸運にも銃弾は皮膚を少しかすっただけで命に別状はなかった。しかしレイはコールマンを訴える気はないほど心が沈んでいた。ペギーの自殺の原因は本当に検討がつかず、それをコールマンがレイのせいであると納得していなかったからだ。
レイは翌日気分を良くするためにヴェネチアにいって、それをコールマンの友人のイネズに伝えた。ヴェネチアでレイとコールマンとイネズは会って、コールマンはレイをペギーが手首を切って自殺をしていたにもかかわらず、女と会っていて見殺しにしたと責めた。レイはペギーは絵を描いていなかったが、落ち込んではいなかったと言った。
さらに別の日に食事で会ってコールマンはレイを責めた。帰りにボートに乗ったところ、コールマンはレイを体当たりしてこぶしで顔面を殴って運河へと突き落として逃げた。コールマンはレイが死んだかもしれないと思った。しかしレイは泳いでぎりぎり生き延びることができた。レイは消えてることでコールマンを監視するように付け回すようになったが……。
このあらすじを読んだだけでも、レイはコールマンに何度も会うのか不思議に感じるなど、どうしてそのような行動をするのか不可解なことが多くあります。そこを人物描写で納得させてしまうのがハイスミスの腕なのです。話はこのあと、レイがコールマンにしかけたり、コールマンがしかけたり、不思議な展開を味わうということで、☆☆☆★というところです。
ハイスミスの作品で、河出文庫や福武書店などさまざまな文庫で出版されていたため、何を読んでいて何を読んでいないのかわからなくなってきてしまいました。最初から読み直してもいいかもしれません。