ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『黒い風に向って歩け』マイクル・コリンズ, 木村 二郎訳,ハヤカワポケットミステリ1433,1971,1984ーー読者サービス満点のハードボイルドミステリ

 隻腕探偵フォーチューン・シリーズの第4作目の作品。このシリーズは、私立探偵小説の王道すぎて、隻腕があまりストーリーに影響を与えていないけれど、非常に歯ごたえがあります。とくに本書は、ストーリー展開が目まぐるしく、それに加えてちょっとしたニヤリとしてしまうシーンがあり、私立探偵小説ファンにとっては満足できるものでありオススメです。

 フォーチューンの依頼人は、ジョン・アンデラという45歳に見えるセールスマンだった。彼はニューヨーク州ドレスデン市の市長の娘・フランチェスカ・クロフォードがマンハッタンの自分のアパートで刺殺されたという新聞の切り抜きを見せた。アンデラは3カ月前から家出をし、偽名を用いていたフランと友人として付き合っていて、その殺人犯を探し出してほしいという依頼だった。そのために2000ドルを提示されたフォーチューンは彼の話は嘘だと思いつつも引き受けた……。

 まずダン・フォーチューンは友人のガッゾー警部補への協力して、モルグに同行して、フランチェスカの殺人現場となったアパートを訪ね、その管理人にフランチェスカの付き合っている男はいたのか聞くと、2人の男がいたと答えた。またフランチェスカが働いていた店に行った。翌日、もう一度アパートに行ってフランチェスカのルームメイトのシーリア・ベイザーにフランチェスカについて聞いたが知らないと言った。フォーチューンはその2人の男は誰だったのか、追求していくと、フランチェスカの思わぬ事実が分かるのだった……。

 怪しげな依頼人、殺人の犯人の捜査という依頼から始まって、フランチェスカという娘はいったいどういう人物だったかを追求していくことで、父親の政治活動に巻き込まれたかもしれないなど判明していきます。警察が知り合いとはいえ私立探偵に情報を提供するなど協力を仰ぐなど本当にあったのか、また偶然が重なって事実が判明するなど不思議でしたが、新しい事実がわかると、さらに新しい謎が提示され、それでもなかなか最後まで真相にたどり着かないスリリングな展開が見られます。

 市長、その後妻、依頼人の双子の娘、金融コンサルタント、実業家、その用心棒、弁護士、インディアンの長老など登場人物が出てきて、ブラック・マウンテン湖の開発とそれを阻止する自然保護運動家、その開発業者と市長との関係、フランチェスカ父親の計画を阻止していたのか、それで殺されたのか、そしてフランチェスカは実の父親がインディアンで彼を捜していたことがわかるなどストーリー展開も読めず盛りだくさんで、☆☆☆★というところです。ちょっとストーリーが分かりずらいということ、あとラストの一人二役の真相をフォーチューンが最後まで分からないことに無理があるのではないかということで点数を下げていますが、いい作品ですよ。あとタイトルが素晴らしい。最後まで読むと、じんわり心に響きます。