ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『フリーランス、40歳の壁――自由業者は、どうして40歳から仕事が減るのか?』竹熊健太郎、ダイヤモンド社、2018 ーーフリーランスを一生持続していくということ

 フリーランスを知る本の第3弾です。竹熊氏のフリーランスとしての遍歴と他のフリーランスとしてうまく乗り切ることができている人へのインタビューが紹介されています。なぜ40歳から仕事が減るのかという疑問ですが、まあそのとおりのことが書かれており、厳しいなあという印象です。フリーランスになるのは比較的難しくないが、生涯続けていくのは難しい。

 中川氏がサラリーマンを経験していることを、フリーランスが仕事をとるためのアドバンテージの一つとして挙げていました。企業にはあるコンセンサスがあって、それを知らない人には「そういうものなの?」と意外に感じることがあります。それは企業として、ある落とし所へ向かっていくことであって、それを知らないままフリーランスになると摩訶不思議でしょうね。実際、わたしもそうでした。

 でも大いなる才能を持っている竹熊氏ですらフリーランスは厳しいのか、余裕ではないのか、という嘆息していまいます。

 加えて働くための情報や技術そのものが10年単位で進んで変化していて、企業にいれば企業が働く環境に投資するので、情報や技術を知ることができ、ついていくことができますが、フリーランスになると自らに投資しない限り難しいわけです。

 それに対し、投資をするのではなく、もとから持っている知識や技術を他の分野に転用することが必要であると示しています。それも自己プロデュースをしっかりしなくてはならないし、それに時間がかかりますし(つまりその間収入がない)、非常に難しい。本書の中には、いろいろトライしてみて、偶然そうなったような方もおられます。

 あと若い頃いっしょに仕事をした人が出世して、その紹介で仕事をもらうのが大きいと書かれていますが、それも難しいですよね。うちの会社でもそういう人がいます。他の編集者からは嫌われていて、編集の仕事もできないにもかかわらず、上司の命令で仕事を出さなければならなかったと悲しそうに言っていましたね。

 編集者としては、やりやすいフリーの人は、編集者本人の意向をうまく汲み取ってくれて、そのまま対応してくれて、早い人ですからね。そうなると、年をとると厳しい。最後に一つの形として、起業して社長になる、というのを考えとしてあげていますが、まあそうなんでしょうね。それには才覚、時間、お金、タイミングがないと難しい。

 なお杉森昌武氏がインタビューを受けていますが、昔に『フロムA』の面白いエッセイを書いていた人でこれからノンフィクションの書き手の一人になるのかなと思っていたのですが、『磯野家の謎』の企画・執筆の制作者など編集プロダクションを経営していたことに驚きました。