ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『ユニクロ潜入一年』横田増生,文藝春秋,2017ーーアルバイトに経営の視点は必要か?

 仕事が忙しくて本は読んでいたものの感想を書くまではエネルギーが残されていませんでしたが、ようやく3冊分の編集作業が終えましたので、心の余裕が生まれました。とはいえ、後ろに受け流してしまった仕事が手元に残っているのですが……。そんな状況の私にとって、本書は心に染みました。

 本書は、実際にユニクロで働いた体験を記した調査報道であります。調査報道は古くからあるノンフィクションですが、長い期間が必要になるため、新聞社や雑誌などの媒体やコストを負担できる依頼人などのバックアップがないと難しいので、なかなか見かけません。それを仕上げたというだけでも好著だといえます。

 とはいうものの、しょせんはユニクロの労働状況の報告ですから、インターネットの掲示板などをあさっていれば、誰もが「とりあえずは」知りうることができる情報です。しかし内容がめちゃくちゃ面白い。一気に読み終えてしまいました。おそらく潜入調査という方法がスリリングさを加えているのではないかと思います。

 また、労働とはなにか、企業とはなにか、経営とはなにか、を考えさせられます。社員に対してこのくらいの締め付けがなければ、いや締め付けを行うことができれば、名経営といえるのかなどです。読んでいても労働環境は人のこころと身体を蝕むものでよくないのはわかっているのですが、このユニクロの経営の方法が自分の心の何処かで間違っていないのではという迷いを抱かざるをえない部分が残ります。

 しかし、経営方法にどうにも腑に落ちないのは、平の社員やアルバイトまで経営の視点をもって働くということです。企業が儲かるためには必要な視点だと思いますが、それならば待遇もそれに対応した視点が必要だと思うのですが。

 とにかくざまざまな見方ができるノンフィクションなので、文庫になってからでもてにとってみるとよいでしょう。 

ユニクロ潜入一年

ユニクロ潜入一年