ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『アナバシス―敵中横断6000キロ』クセノポン、松平千秋訳、岩波文庫、紀元前370年代、2002ーー脱出はエンタメの基本ですね

 近所の図書館の新入荷コーナーに置いてあったのをたまたま拾い上げて読んでしまったノンフィクション・ノベル?(そこには三島由紀夫の現在の新潮文庫の活字の大きさにリメイクされた『午後の曳航』もあった)

 手にとった理由は、「クセノポン…どっかで聞いたことあるな」であり、「サブタイトルの『敵中横断6000キロ』というのは冒険小説っぽくて面白そうだな」であり、解説を読むと「あの『ソクラテスの弁明』の作者か」と驚いた。そうすると哲学者が軍人であるということになる。かねがね不思議に思っていたのが、哲学者と軍人が同一人物であるということだ。どのように一人の人間のなかで両立していたのか、それを知るためには、このようなノンフィクション(といっていいのかわからないけど)を読むのが手がかりになるのではないかと考えた。

 あと実際に少し文章を読むと、非常に読みやすい。この難しいと思っていたけど、実際にはつるつる読める平易な文章だったというのは、岩波文庫に多い。元本はちくま書房だったようだけど、岩波文庫はかなり編集方針として、平易な文章でなくてはならないというものがあるのではないだろうか?

 もとに戻って、舞台は古代ペルシャで、その国王には二人の息子がいて、優秀でない長男が王国を継いだのだが、嫉妬した優秀な次男が国を乗っ取ろうとクーデターを起こした。そのときに傭兵としてギリシャ兵などが雇われ、その一人がクセノポン。その次男に心を奪われていたので力をかそうとしたわけだけど、15000名の軍隊で攻めたが、裏切りにあって、次男は殺され、軍隊の指揮者も騙されて殺された。指揮者がいない軍隊が敵のど真ん中で放り出されたので、新たな指揮官をみんなで決めて任命して、6000キロの距離を10000名以上の傭兵集団が2年をかけてギリシャまで脱出するという話である。

 考えてみれば、冒険小説・エンタテインメント小説の基本設定と変わらない。したがって、非常に思いがけなく面白い。どのように進んでいったのか、まあその土地々々で話し合ったり略奪したりなんですけど、危機的状況になるとみんなで話し合って対処して行動するわけである。

 ここでクセノポンがプラトンの弟子よろしくうまい説明をして、どうにかこうにか切り抜ける。それがあまりにも多すぎて、クセノポンが自分の覚えていることだけ記述したのじゃないかというほど。またクセノポンも偉そうにしないので、逆にかっこよく書いているんじゃないかと思ってしまう。というわけで、冒険小説と言うにはシンプルすぎるけど、おすすめです。

アナバシス―敵中横断6000キロ (岩波文庫)

アナバシス―敵中横断6000キロ (岩波文庫)