ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『殺す者と殺される者』ヘレン・マクロイ、務台夏子訳、創元推理文庫、1957、2009ーーむしろ2000年以降に読んだほうが面白い

 ヘレン・マクロイ全31作中17作目の作品。後期の作品かと思っていましたが、意外と中期の作品で、おそらく当時としては野心的で、ここまで翻訳が遅れたことのは意外性の極限を狙って滑ってしまったが、現在改めて読むと面白さを感じることができる作品といえます。これを時代が追いついたというのでしょうか。先過ぎますけど。

 若手の心理学者のヘンリー・ディーンは、働かなくてもよいくらいの伯父の遺産を引き継ぎ、大学を辞め、田舎の故郷に帰って悠々自適な暮らしを過ごすことにした。その田舎に引っ越しをしたのだが、ある日、自分の見覚えのない小切手が切られて、銀行から連絡を受けた。その小切手を受け取った小売店に行ったところ、ヘンリーの運転免許証をもった自分に似た人物が持ってきたらしい。せっかく故郷に帰ったのに、莫大な遺産を引き継いだヘンリーに集った不審者がいるのではないかを不安を覚えるヘンリーだが…。

 マクロイのなかで、○○○○をトリックあるいはテーマに使用した作品があるというのは、昔の『ミステリマガジン』で宮脇さんが連載していた未訳紹介のエッセイにありましたが、本作であるとはまったく知らず、いきなりこの展開になったときは驚きました。最近あまりないということと、出現の仕方がいきなりだったので効果的でした。

 最後まで読んで、改めて最初から少し読むと、けっこうあからさまに伏線を張っているのがわかります。変だなあというところも、まんまとミスディレクションに引っかかってしまいました。

 また、当たり前なんですけど、冒頭からのキャラクター、書き方、展開が、ウィリアム・アイリッシュフレドリック・ブラウンのようで、いかにもこの時代のミステリという感じがして、今読むとこれも愉しい。

 というわけで、タイトルの妙も相まって、本来でしたら傑作ではないのでしょうけれど、ページ数も短くて丁度よく、ちょっと甘くして☆☆☆☆というところです。マクロイのこの手の作品はどうしても甘くなってしまいますね。なんででしょうね。 

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)

殺す者と殺される者 (創元推理文庫)