ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

私立探偵小説が好きな理由

 私は私立探偵小説が好きである。その理由は、どこから収入を得ているのか、財産をもっているのかにかかわらず、彼らがフリーランスだからである。何の権力を受けず、権力から自由に生きることを選択しているからである。

 そういう点からみると、警察官はしょせん自分の食い扶持を心配することなく、事件の捜査や解決を試みる職業である。いくらフロストのようなワーカホリックで命をかけていようとも、組織の中で自由に捜査をしようとも、しょせんは仕事なのだ。そこに何の意義があるというのだろう。

 スパイも同様である。先日、ル・カレの小説を久々に読んで、それなりに愉しかったが、読んでいるときも読んだあとも、キャラクターに対して違和感が残るのは、どうしてコイツらはこんなに威張っているのだ、ということだ。しょせん彼らはスパイという職業で国から給料をもらっている役人に過ぎないのにだ。何ももたず、国に反抗して、敗れ去って逃げてきた者のほうが何倍も、存在としては素晴らしいではないか。だから、国に裏切られたぐらいで、アイデンティティを喪失するのだ。初めからフリーランスであれば、そのようなことはないはずである。

 しかし、フリーランスでいることは、威張ることができないし、プライドを喪失することがよくある。例えば、金のためである。それでも、私は、そのほうが尊いと思うのだ。これは、ホームズでもポアロでも、メルヴィール卿でも、マーローでも同じで(クイーンは警視の倅だから異なるけど)、私が、私立探偵小説に対して、採点が甘い理由はそのためである。