ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『厳寒の町』アーナルデュル・インドリダソン、柳沢由実子訳、東京創元社、2005、2019ーー新しいミスリードを誘うミステリ

 アーナルデュル・インドリダソンの新作といっても、原著発行は2005年のかなりの旧作。インドリダソンは私と相性がよく、文章を読んでいても不快な気分になりません。今回もエーレンデュルの捜査のたたずまいや行動様式がメグレ警部に似ていて、メグレ警部物を読んでいる気分になりました。

 最後まで犯人は不明で非常にスリリングでしたが、真相が明かされてみると衝撃が半分、謎解き要素が少ないものでした。

 しかし、なぜほとんど最後まで推理できなかったと考えると、これまでのミステリにはあまり見られないミスリードがあったからではないか、とも思えます。そのミスリードとは、社会学的なもので、被害者がタイからの移民してきた10歳の子どもだったことから、犯人は移民に対して憎悪をもっていた学校の先生や近所の者のではないか、もしくは近所の小児愛的嗜好をもつ者ではないかなど、探偵役の警官が推理をしていくのですが、それにまんまと引っ張られてしまいました。

 それを考えると、☆☆☆☆というところです。それでも年間ベスト10、悪くともベスト20にはランキングされてくると思います。

 タイトルはもう少しストーリーを説明するものであってもよいのではないでしょうか?  例えば、そうですねえ、『厳寒の町の少年の死』ではだめか。原著タイトルの『Vetrarborgin』は「冬」という意味みたいですので、原著に合わせているんでしょうね。

厳寒の町

厳寒の町