ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『聖女の救済』 東野圭吾、文春文庫、2008、2012ーーほとんど全編がハウダニットの推理小説

 日本ミステリを読もうと思って手に出したのは、東野圭吾氏のガリレオシリーズの第4作目の作品で長編としては、『容疑者Xの献身』の次の作品に当たります。私としては発表当時の評判はまったく覚えていません。というか東野氏の作品はやたら評判がよいというイメージがありますが、作品に区別がつきません。

 作風はデビュー時は赤川次郎と謎解きミステリの融合というか、はっきりした作風が見えず、『眠りの森』では作風をはっきりしようと苦闘しているなあ、と思っていました。その後、トリックそのものによって読者の感情をコントロールするという作風を『白夜行』あたりで確立したのかなと感じました。

 私にとって東野氏はあまり読んではいないのですが、好きなのは、動機が好きな『放課後』、内容が意欲的な『どちらかが彼女を殺した』ですね。

 本作はその登場人物の少なさという意味で、『どちらかが彼女を殺した』(こちらはフーダニットですが)に似ていますが、どのように殺人を犯したのかを推理するハウダニット・ミステリであり、ほぼ犯人を特定したままで、これはよほど驚きがないとつまらない内容になるのですが、『虚数解』というキーワードを引き出すようなトリックでした。

 私としては驚いたのが、ほとんど全編がハウダニットの推理に用いられていることです。アクションや行動がまったくありません。それだけで400ページ以上読者を引っ張るのは、ものすごいなと感じます。というわけで、☆☆☆★というところです。

聖女の救済 (文春文庫)

聖女の救済 (文春文庫)