ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『流れは、いつか海へと』ウォルター・モズリイ、田村義進訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2019ーーすべての陰謀は流れゆく

 ウォルター・モズリイは処女作の『ブルードレスの女』を新刊で読んで失望して以来読んでいない。その処女作は面白くなかったからだ。しかしアメリカで評価を受けているということは翻訳されたもの以外のことが評価されていると感じた。たとえば文体や会話などだ。

 本書は書店で見かけた。購入した理由は、アメリカ探偵作家クラブ賞の最優秀長篇賞を受賞したこと、もう一つは「これが、人生を描くということだ」という原尞氏の推薦コメントと、私の心にひっかかるタイトルだったからである。

  原尞氏は昔『ハヤカワミステリマガジン』のその年のベスト3冊を挙げる号において、独特の選び方をしていた。正確ではないが、自分が小説を書くようになってからは、読むに耐えうるミステリが少なくなったようで、最初は結構その年の話題作を挙げていたような気がするが、年々1冊など少なくなり、しまいには晩年のビャビン・ライアルとロス・トーマスの新作を挙げるのみになってしまった。そういうのは、わかるような気がする。その原氏が珍しく推薦したのだ。

 主人公は元刑事の私立探偵のジョー・オリヴァーで、私立探偵になった理由は十三年前の刑事時代に誰かに冤罪をきせられ犯罪者になったからである。そのジョーのもとに、冤罪の証言を行った女性から謝罪の手紙を受け取った。その証言をしなくてはならない事情があった。同時に、警官を殺害したジャーナリストの冤罪を証明してほしいという依頼を受けた。ジョーはそれぞれの事件を探っていくのだが……。

 二つの事件を読者が混乱することなく、それぞれの事件に関わる当事者に会っていき、少しずつその陰謀が小刻みに暴かれていく。まるでこのように語らなければ読者には見放されてしまうと考えているようにも思える。そのため、中途で飽きることがなく、進んでいく。ラストシーンでは絶望的な状況のなかでどのように突破するかがクライマックスとして用意されている。このクライマックスが『バナナフィッシュ』のようなのだ。というわけで、☆☆☆★というところである。 

流れは、いつか海へと (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

流れは、いつか海へと (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)