ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『網内人』陳 浩基, 玉田 誠訳,文藝春秋,2017,2020ーーインターネットが導く犯罪

 陳浩基氏の『13・67』の次の新作。よく考えてみれば『13・67』もそうだったけど,タイトルから内容を類推するのが難しいね。これは原著であれば,そうでもないのかもしれないけど。

 とにかく2段組みで分厚くて大変だけど,慣れてしまえば訳文もこなれているし,欧米のミステリと違って,キャラクターのものの考え方や社会状況が日本に似ているので,まるで日本のミステリのように読むことができた。また,キャラクターが非常に軽く,まるで日本のライトノベルのようだった。――中途の描写の細かさは,スティーブン・キングかと思わせたけどね。

 タイトルの『網内人』は訳者あとがきによると造語らしい。出版社や取次,書店にとっては,電話などの口頭で注文を伝えるのが面倒くさいので,非常に避けてほしいタイトルだと思うから,出版社側は日本オリジナルタイトルにしたかったのかもしれないけど,作者側が拒否したのかもしれないね。

 主人公はOLのアイでその中学生の妹のシウマンが自殺を図ったのが信じることができなくて,その真相を突き止めるために叔父の探偵の紹介でハイテク探偵のアニエに依頼する。アイが自殺した理由は,地下鉄で痴漢をしてきた中年男が逮捕されて有罪になったのだが,その甥がネット掲示板に叔父は無罪である,アイに落としいられたのだという告発のため,周りにいじめらしきものを受けたためであったと報じられた。姉のアイはシウマンがそのようなことを行う性格ではない,と信じていた。アニエが探っていくと,その掲示板の告発したものは,ログが探られないように周到に用意していたものだった……。

 上のあらすじは細かいことが正しくないかもしれないけど,大まかにはそんな感じで,いかにネット上で中学校の人間関係をかき回し,人を導き操っていくかを探っていくわけで,ネット上のことはなかなか証拠がとれないことから,富豪刑事の要素もあり,ネットを利用して犯人を追い詰めるというコンゲームらしき仕上がりになっている。

 僕もローカルながら,掲示板を使った告発を行ったことがあるけれど,書き込むことに気づいたのは,自分が書くことによって,誰が読む可能性があり,どのように影響が波及していくかを常に可能性を予測するため,見当違いの事実を書いたり,莫迦な記述をしたりして,必ずしも事実を書くことがないことである。本作は,それを十全に理解し,物語を構築している。

 日本にもすでにこのぐらいの本格ミステリはあるのではないかと思うのだけど,面白さ,複雑さを加味して,また犯人像が非常にリアルでなかなか好みだということで,☆☆☆☆というところだ。僕としては,もっともっと短くできたのではないか,アニエの内面を描きすぎではないかと思った。 

網内人 (文春e-book)

網内人 (文春e-book)