ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東 浩紀,中公新書ラクレ,2020ーー組織を運営するには身体性がなくてはならない

 『ゲンロン』という雑誌は知っていて,書店で手に取って「難しくてわからん」といったままで,本書の署名やインタビューから,てっきり出版社盛衰記だと思っていたけど,まったく違く内容だったにもかかわらず,一気に読むことができて,非常に面白かった。話題になるだけある。

 出版されているものの内容から,専門書出版社だと思っていたけど,売り上げが2万や3万の数字が出て,普通の専門書とは桁が一つ違うのにも驚いた。ということは,やはり専門書ではなく,ものすごく狭い一般書なのだろう。となると,私もそのような出版社に営業として在籍していたから,経営が非常に難しいのがわかる。一般書は,どのくらい売れるかというのは,読み切るのは難しいからだ。売れるという根拠があっても外れることがある。

 本書は,会社組織を運営していくための1つの事例であり,これから運営する人にとって有益なものであるといえる。組織を身体でとらえなくてはならない,というのはその通りだろう。

 これは東氏が創業者であり,その理念や思想がぶれていない(ように述べていて他の人はどう感じているかは不明だけど)からこそ,その理念や思想を実現するために,失敗したり成功したりする。この理念がぶれていると「誤配」による失敗したときに迷走してしまうが,ゲンロンでは理念や思想が担保されているので,それに合わない人を排除することができることがわかる。

 また東氏はクリエイターであり,クリエイトし変化するためには何が必要かを熱望して,ゲンロンを作ってる。これは矛盾している。クリエイター気質だけでは運営はできないということだ。例えば売り上げを考えず書籍のカバーデザインを気に入るものにするためコストをかけてしまう。やはり,ジブリのようにクリエイターとそれを理解・実現・妥協を説明できるプロデューサーのコンビが不可欠なのがわかる。

 またまた別のことだが,一人の人間は一つの思想やスタンスをもっていて,生涯を行うことは,それを基盤にしたバリエーションの成果だということもわかる。ルソーやフロイト,はたまた小林よしのり氏など,自分の本流ではない業界や事象まで踏み込んでいくのかわからなかったが,そういうことなのだろう。