ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『嫌われた監督―落合博満は中日をどう変えたのか』鈴木忠平,文藝春秋,2021

 本書は久々にスポーツノンフィクションで評判を得た作品。インターネット普及以降,スポーツノンフィクションの傑作はなかなか現れなくなった。それは,スポーツノンフィクションそのものに,悪く言えば暴露的なものがあるからで,インターネットに小出しになったため,失われてしまうためだ。そういう時代に本書はうまくネタを拾ったものといっていいだろう。それでも,もっとこの手の作品が多くなっていいはずだ。

 この手のノンフィクションの先行作品としては,やはり海老沢泰久の『監督』(これはフィクションだけど),『ヴェテラン』だろう。筆者は,これらの作品を念頭に置いたと思う。

 筆者は,元なのか新聞記者で,そのときの取材をもとに,落合の中日監督時代の8年間について書かれたものだ。私は,その時代ほとんど野球を見ていないから,落合の中日は強いな,ただ観客数が減っていて非難されているな,ぐらいしか感想をもっていなかった。その内側の攻防がきちんと書かれ,非常に面白かった。

 筆者は,きちんとフェアにすべてを書ききるためか,「私」だったり,落合だったり,各選手だったり,視点が多いのが気になった。これでいいのだろうかと疑問に感じたが,これ以外に書く方法がないこと,視点を変えることのアンフェア以上に,書かなくては対象者にフェアではないと感じたのだろう。

 うーん,『監督』の印象は新潮文庫版だね。