書評などで評判がよかったサスペンスミステリ。
誰もが思う通り、空港で出会った男女がそれぞれ交換殺人を検討するところからはじまるように『見知らぬ乗客』に似ています。
もう少しキャラクターが立っていればよかったのですけど、でもそうするとリアリティなくなるし広い読者を得られなくなるかもしれないというところで、☆☆☆★です。
- 作者: ピーター・スワンソン,務台夏子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2018/02/21
- メディア: 文庫
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書評などで評判がよかったサスペンスミステリ。
誰もが思う通り、空港で出会った男女がそれぞれ交換殺人を検討するところからはじまるように『見知らぬ乗客』に似ています。
もう少しキャラクターが立っていればよかったのですけど、でもそうするとリアリティなくなるし広い読者を得られなくなるかもしれないというところで、☆☆☆★です。
映画『シン・ゴジラ』のメイキング本。「庵野総監督による企画メモやプロット、脚本(準備稿、決定稿、最終決定稿)、各クリエイターのデザイン画やイメージボード等を網羅して収録、庵野秀明、主要スタッフインタビュー」が収録されています。高価格ですが、内容、ボリューム、造本などコストを考えれば妥当あるいは低価格だと思います。
とくに興味深いのが庵野氏のインタビューでシナリオが決定稿に至るまでのプロセスを詳しく述べています。八稿まであるのですが、それぞれの段階でどのように変化していくかがわかります。たとえば中途でここらでプロの脚本家に任せたほうがよいと判断して東宝が依頼したのですが、戻ってきたものをみて自分が監督をする必要はないと監督を降りると判断したりしています。そこで元の企画内容に戻すべく脚本を修正しています。
また、主な登場人物が政治家や官僚でしたが、元の脚本では全く政治家や官僚らしくない行動・セリフだったらしく、庵野氏は政治家・官僚たちの行動原理がわかっていなかったというようなことを述べており、かなり決定稿まで近いところまでいっていながら、インタビューや脚本チェックをしてもらって、違和感のないところまで仕上げたようです。今後、新しいエヴァの内容も変化するのではと思いましたね。
とにかく、モノを作り上げるということは、とくに「集団」で作り上げるためにはどのようなプロセスをたどるのかがよくわかります。
刑事 "ハリー・ボッシュ" シリーズ第10作目の作品。コナリーは、作品順に読むのが難しく飛び飛びになっていまっています。
コナリーの作品については、以前から書いていますが、ストーリーもキャラクターも面白いものの、わたしは割と作品としては否定的でなんです。人には面白い小説として勧めやすいのですが、心に残る作品かというとそうではない。なんかテレビドラマ的なんですよね。
どうしてそう思うのか、つらつら考えてみたのですが、キャラクターの心情と行動が一致しているからではないかと思うんです。人というのは、このような環境や状態があって、こう思って、合理的にそのとおりに行動するわけではないんですよね。つまらない欲や気がかりなことで行動を決めることもある。また、もっと子どもの時のトラウマや親との関係で理不尽な行動をする。そういうのが少ないんです。
本書も冒頭の殺人か自殺かの謎から、暗号の提示、犯人の設定、捜索の方法、そしてクライマックスまでスキがなく、河の流れのごとく読者を操り、最後までハラハラさせながらつれていきます。そのような小説はあまりなく、素晴らしいと思います。しかし、しかしなんです。例えば、もっとヒーローとヒロインに弱点や悪意をもたせてもいいのではないでしょうか。ポアロやクイーンにだってあります。ましてやリアルをテーマにした警察小説なのですから。
というわけで、☆☆☆★というところです。すいません、文句しか書かなくて。
仕事が忙しくて本は読んでいたものの感想を書くまではエネルギーが残されていませんでしたが、ようやく3冊分の編集作業が終えましたので、心の余裕が生まれました。とはいえ、後ろに受け流してしまった仕事が手元に残っているのですが……。そんな状況の私にとって、本書は心に染みました。
本書は、実際にユニクロで働いた体験を記した調査報道であります。調査報道は古くからあるノンフィクションですが、長い期間が必要になるため、新聞社や雑誌などの媒体やコストを負担できる依頼人などのバックアップがないと難しいので、なかなか見かけません。それを仕上げたというだけでも好著だといえます。
とはいうものの、しょせんはユニクロの労働状況の報告ですから、インターネットの掲示板などをあさっていれば、誰もが「とりあえずは」知りうることができる情報です。しかし内容がめちゃくちゃ面白い。一気に読み終えてしまいました。おそらく潜入調査という方法がスリリングさを加えているのではないかと思います。
また、労働とはなにか、企業とはなにか、経営とはなにか、を考えさせられます。社員に対してこのくらいの締め付けがなければ、いや締め付けを行うことができれば、名経営といえるのかなどです。読んでいても労働環境は人のこころと身体を蝕むものでよくないのはわかっているのですが、このユニクロの経営の方法が自分の心の何処かで間違っていないのではという迷いを抱かざるをえない部分が残ります。
しかし、経営方法にどうにも腑に落ちないのは、平の社員やアルバイトまで経営の視点をもって働くということです。企業が儲かるためには必要な視点だと思いますが、それならば待遇もそれに対応した視点が必要だと思うのですが。
とにかくざまざまな見方ができるノンフィクションなので、文庫になってからでもてにとってみるとよいでしょう。
「国名シリーズ」の第6作めの作品。わたしはミステリをクリスティから謎解き小説を広げ、それからハードボイルド、冒険小説などに移っていったのですが、謎解き小説中心時代でクイーンは半分ぐらい読んで通り過ぎてしまいました。ですので、「国名シリーズ」は前半くらい読んで、本書はおそらく初めて。「おそらく」というのは内容は忘れてしまっているので……。
今回このシリーズに手を出したのは、角川書店で新訳、そして大きな活字で出版されたのが大きいですね。カーは旧訳のまま、活字は小さいままで、読み進めるのがキツイキツイ……。
冒頭で「アメリカ銃の秘密(ロデオでの死)ーーある推理の問題」(3頁より)と書かれている通り、2万人の観客を集めたロデオ・ショーにおいて、映画スターのホーンが馬に乗って会場を回ったところ、馬上で銃殺された。ショーに来ていたクイーン父子は殺人事件として捜査を始める。この大勢の観客が容疑者と考え、凶器の銃を持っているか所持検査をしたが見つからなかった。銃はどこに消えたのか、犯人を絞ることができるのか?
トリックは、殺されたホーンが犯人であるという一人二役パターンでした。しかし、遺体の顔がきれいだったこと、殺された男の娘が父親であることを確信したことから、その可能性を考えなかったわたしとしては、フェアではないと思って少し納得できませんでしたね。しかし、そんなことはクイーン自身でもわかっていたわけで、フェアでないということを推理できる作品として、それに挑戦したということでしょうか。というわけで、☆☆☆★というところです。
私立探偵ジョン・タナー・シリーズ第13作目の作品。あと残りが少なくなってきました。本シリーズは、謎解きと意外な犯人がきちんと盛り込まれていて、ミステリとして正統派の貴重なシリーズだと思います。本書もまさしくそのような作品です。
タナーの入院先で一緒にリハビリを受けた25歳の女性のリタ。生まれつき脚の障害をもっていたが進んだ手術より健常とわからないように回復していた。リタはイチゴ農場で働いており、その退院後、刺殺された。タナーは依頼人のいないまま、強大な農場主が支配する南の小さな町で犯人を捜す。しかし、タナーはリタの昔からの友人で看護師のモナに秘密を暴くなと忠告を受ける。
モナはドアを閉めると、かすかにささやき声でいった。
「わたしたちをそっとしておいてちょうだい、ミスター・タナー。ハシエンダス(舞台となっている地名)には、暴かないほうがいいことがいろいろあるの。誰も知らないほうがいいことは、知っている人間までがお墓まで持っていくのが一番なの。そうさせてちょうだい、ミスター・タナー。時間がたてば、秘密は埋もれてしまうんだから」(70~71頁より)
リタは秘密を持っていたらしいと知るタナーは容赦なく暴こうとするのですが、婚約者、幼馴染、婚約者の家族などがそれを阻止する。また、探っていくうちに、嫉妬、死出生の秘密などさまざまな殺人の動機が考えられるようになる。
また、前作でもそうでしたが、この時代のアメリカの問題点を舞台にしているところなど、ああ、そういえば、こんなことが問題になっていたっけ、思い出します。ただ単なる歴史になっているだけで、現代につながっていないところが残念ですが…。
後半、タナーは、関係者にカマをかけて、自白を引き出そうと解決を図りますが、それを3回行います。この3回ともが絶妙で、どんでん返しになっています。というわけで、☆☆☆★というところです。
憎悪の果実―私立探偵ジョン・タナー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
前回までフリーランス関係書3部作のような形で読んでしまいましたが、今回は偶然ですがちょっとしたスピンオフになりました。会社をもつということは、立派なフリーランスの一形態ですよね。
ちょっと前に、知り合いの印刷会社の社長さんに「印刷業界はやっぱり厳しいんですか」と聞いたところ、「いや、そんなことないですよ。廃業している会社は結構あるのんですが、あれは黒字なんですけど、後継者がいないから潰しているんですね。印刷と言っても紙だけでなくいろんなところに印刷しますからね」と話していましたので、本書の「小さな会社を買う」という発想はまあそうなんだろうなと思って購入しました。
とはいうものの、本書は私が期待した多くの事例であるとか、中小企業の買収のマニュアルではなく、サラリーマンはイチから起業するのではなく、大企業でマネジメント能力をもっている人は技術などをもっている中小企業のオーナーになったほうが成功する確率は高いし、そういう人が増えている、という内容。そういう意味で私には物足りなかったのですが、続編に期待です。
サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門 (講談社+α新書)