ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『悪い男 ―エーレンデュル捜査官シリーズ』アーナルデュル・インドリダソン, 柳沢由実子(訳)、東京創元社、2008、2024ーーストーリーはシンプルで、複雑なテーマをもち、謎解き要素もある職業物

 新作が出たら読む作家は幾人しかいませんが、アーナルデュルはそういう作家のひとり。過去作の感想にも書いているかもしれませんが、筆致に悲劇を描くロス・マクの残り香があるので、それだけでも価値があるシリーズです。読んでいると、主役が替わるとこととかマクベインを思わせるクラシックは感じがプンプンする。そんなアーナルデュルの新作は、原著が2008年発行であり、それを差し引いた評価をしなくてはならないでしょう。

 Amazonでは「エーレンデュル捜査官シリーズ」と書かれていますが、本作は同僚の女性捜査官のエリンボルグがレイプ魔が殺された事件を単独で現場検証と関係者への地道な捜査、職業人らしいひらめきで犯人を追い詰めます。

 アパートで殺された男は、のどを鋭い刃物で切り裂かれ、部屋の中は血の海だった。男は射精したばかりであり、女性もののTシャツを着て、女と一緒のときに殺されたのではないか。その女性が犯人ではないかという線で捜査を始めると、男は薬を用いてレイプをしていると分かった。事件の夜に足に装具を付けた者がいたという目撃証言、男はインターネット配線などを部屋でつなぐ仕事をしていることから、一つ一つ犯人を絞っていくのだが…。

 前作も同じだったと思うのですが、ストーリーはシンプルで、複雑なテーマをもち、謎解き要素もあり、職業物のいった感じが好ましい。捜査官は捜査の基本を守っている感じがする。謎解きと犯人のバランスがあまりよくないのですが、それでもフェアプレイが守られているので☆☆☆☆ですね。結構、満足しました。

 ただ尋問方法は2008年発行とはいえ古いなあと感じました。