ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

2014-01-01から1年間の記事一覧

『第三の時効』横山秀夫,集英社文庫,2003,2006

横山秀夫氏の第6作目の作品で6本の短編が収録されています。F県警の捜査第一課のメンバーをそれぞれ主人公にしており、F県警捜査第一課シリーズというものでしょうか。 収録作は「沈黙のアリバイ」「第三の時効」「就任のジレンマ」「密室の抜け穴」「ペルソ…

『仮面荘の怪事件』カーター・ディクスン, 厚木淳訳,創元推理文庫,1942,1981 ☆☆☆★

カーの中期後半のヘンリー・メリヴェール卿ものの作品。H・M卿が、奇術ショーを行うところが愉しい。 〈仮面荘〉(マスク・ハウス)の当主で実業家のドワイド・スタナップは絵画をコレクションしていた。仮面荘は劇場をもっているほど大きな屋敷で、大晦日の…

『1922』スティーヴン・キング, 横山啓明・中川聖訳,文春文庫,2010,2013

2010年に原著が発行されたキングの第3中編集を日本版では分冊して発行されたもの。本書はその前編でキングの中短編2作「1922」「公正な取引」を収録。 「1922」は、タイトル通り1922年に、妻を殺して井戸に遺棄した農場主の男が罪を告白するお話で、殺人に…

『薔薇の名前』ウンベルト・エーコ, 河島英昭訳,東京創元社,1980,1990

『東西ミステリーベスト100』http://d.hatena.ne.jp/hoshi-itsu/20121125 のとき、未読をチェックしたのですが、本書だけが読むつもりだったのに読んでいない作品でした。『フーコー』もすぐに文庫になったから著者が拒否していないから、本書も文庫になるの…

『秘密』ケイト・モートン, 青木純子訳,東京創元社,2012,2013

本書は、『秘密の花園』『嵐が丘』『レベッカ』を引き合いに宣伝された『忘れられた花園』で評判を得た作者の最新作。私はこのような人間関係を主題とする作品が苦手なので、『忘れられた花園』は気になりつつも手に取らなかったのですが、何故か本書は手に…

『幻想の未来/文化への不満』ジークムント・フロイト, 中山元訳,光文社古典新訳文庫,2007

フロイトは大学時代に『精神分析入門』『夢判断』を新潮文庫で読んで以来です。10年くらい前に知り合いの勧めで、一冊何か手にとったのですが、まったくチンブンカンブンで難しかったため、中途で投げ出してしまいました。そういえば『夢判断』って、いつの…

『海街diary 第6巻 四月になれば彼女は』吉田秋生,フラワーコミックス,2014

もうこの歳になりますと、同じマンガのシリーズは質の高いものを年に1〜2冊発行してもらうのが、生活ペースにあいます。年1冊で6年間で6冊完結ぐらいがちょうど良いです。本シリーズはそのような理想的なペースでしたが、前の巻から本巻にまでは少し時…

『笑ってくたばる奴もいる』A・A・フェア, 田中小実昌訳,ハヤカワポケットミステリ489,1957,1959

クール&ラム私立探偵事務所シリーズ全29作中第16番目の作品。刊行から50年以上経っても読みやすさは変わりません。翻訳がこなれているのと、この時代の特有の平仮名の使い方のためでしょう。この平仮名の使い方ですが、例えば以下のとおりです。この漢字の…

『リバースエッジ 大川端探偵社 第5巻』ひじかた憂峰=作, たなか亜希夫=画,日本文芸社,2014

『湯けむりスナイパー』と同じようにテレビドラマ化されましたが、その決定が報道されたときは驚きました。本作はあまりキャラクターもドラマがなく、エピソードだけなので、テレビドラマにするには持たないと思ったからです。それでも、『湯けむり』のよう…

『三秒間の死角』アンデシュ・ルースルンド, ベリエ・ヘルストレム, ヘレンハルメ美穂訳,角川文庫,2013

スウェーデンミステリの『死刑囚』のコンビの第5作目の作品。刑務所潜入モノです。実はこの作家は『死刑囚』で十分だ、もう読むことはないだろうと判断していたのですが、昨年評判になって気になったので手に取りました。 前半はじわじわ設定を組上げていく…

ブラジルW杯の結果は運だったような気がする――『サッカー「観戦力」が高まる』清水英斗,東邦出版,2011

本書は、実際の戦術をネタにして解説していますが、ピッチのイラストがほとんどなく、フォーメーションやプレイを文章で説明しているため、テレビなどで見たことがあるゲームやシーンでしたら中身が理解できるのですが、見たことがないことも結構あるので、…

『影と陰』イアン・ランキン, 延原泰子訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,1990,2006

小説を読んでいてもどういうわけか集中できず、中途でやめること3冊を経て、ノンフィクション、新書で紛らわせて、長らく小説を読むことができなかったのですが、ようやく読むことができた一冊目です。この一冊目を選択するのが難しかった。初読の作家、上…

「新潮文庫nex」創刊の話

新潮文庫が新レーベル「新潮文庫nex」を立ち上げるニュースは興味深いですね。おそらくは、販売戦略としての書き下ろし文庫+イラスト付き小説なのでしょう。なんというか「ライト新潮文庫」という感じ。ニュースになったのは、用意したラインナップが豪華だ…

『プードルの身代金』パトリシア・ハイスミス, 岡田葉子訳,扶桑社ミステリー,1972,1997

ハイスミス14作目の作品。カバー紹介に「中期の代表作、ここに新訳で登場!」とあります。確か旧訳が映画の公開にあわせて出版されていたように思います。 出版社に勤めるノンフィクションの編集者のエドワード・レイノルズとその妻のグレタが飼っているプー…

『プロタゴラス―あるソフィストとの対話』プラトン, 中澤務訳,光文社古典新訳文庫,2010

光文社古典新訳文庫は当初『カラマーゾフの兄弟』のような文学作品から始まったような印象を受けますが、実際調べてみると、文学作品のみならず、哲学書など古典ならば何でも新訳をしているようです。でも、文庫ですから、ある程度の売り上げ部数を見込める…

アニメを作るということ――『風に吹かれて』鈴木敏夫,中央公論新社,2013

最初に書店で見かけたとき、渋谷陽一氏による鈴木氏への『Cut』のインタビューをまとめたものか、『風立ちぬ』公開時にあわせて、なぜかロッキン・オンではなく、中央公論新社で発行されたもの。 鈴木氏は宮崎氏、高畑氏との出会いから現在までの流れを吐露…

コミックエッセイの効用――『わが家の母はビョーキです』中村ユキ,サンマーク出版,2008/『わが家の母はビョーキです2 家族の絆編』中村ユキ,サンマーク出版,2010

てっきりタイトルから毒親関係かなと思って手に取ったのですが、統合失調症の関連書でした。このような面白いエッセイコミックを読むと、エッセイコミックがしっかり一分野として確立されてるのがわかります。親子の物語であるとともに、夫婦の物語であり、…

『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上)(下)』増田俊也,新潮文庫,2011,2014

戦前から戦後にかけて柔道日本一として君臨した柔術家の木村政彦の一生涯を追っていったノンフィクション。第43回大宅壮一ノンフィクション賞、第11回新潮ドキュメント賞受賞作で、非常に読み応えがあります。優れたノンフィクションには読者に幾通りもの読…

『漫画版 野武士のグルメ』久住昌之=原作, 土山しげる=画,幻冬舎,2014

久住氏のエッセイを原作に土山氏が漫画化した作品。久住氏といえば『孤独のグルメ』、土山氏といえば『喧嘩ラーメン』『食キング』などの店商売としてのグルメコミックです。美味しそうに食べるシーンには、喉を鳴らさせるような独特の魅力があります。その…

体験が感覚を変える――『日本人には二種類いる――1960年の断層』岩村暢子、新潮新書、2013

『普通の家族がいちばん怖い』の岩村氏の1960年以前に生まれた人、1960年以降に生まれた人の生育・社会などの環境による「体験」が全く変わってしまったため、まったく異なる日本人のタイプが存在することを論理展開した本です。 期待して読んだのですが、19…

『ヨーロッパ文化と日本文化』ルイス・フロイス, 岡田章雄訳注,ワイド版岩波文庫,2012

信長の時代にイエズス会宣教師ルイス・フロイスが、文化的なことから風俗的なことまで、ヨーロッパと日本と相違点をシンプルにまとめた資料的価値があるもので、拾い読みするだけでも面白いです。 たとえば「2 ヨーロッパ仁は大きな目を美しいとしている。…

『仮面ひきこもり――あなたのまわりにもいる「第2のひきこもり」』服部雄一、角川oneテーマ21,2014

池袋ジュンク堂の1階の新刊コーナーに売れている本の一つとして置かれていた新書です。ジュンク堂の新刊コーナーは新刊を出版したからといって無条件に置かれるわけではないんです。前著がベストセラーになったか、賞を受賞したか、書評などで評判を得たか…

『殺人犯はそこにいる――隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』清水潔,新潮社,2013

あの桶川ストーカー殺人事件の清水氏の新刊ということ、その書評で絶賛されていたことから自宅のそばの書店で購入しました。これは、1979年以降、群馬県・栃木県の県境付近で起きた幼女の誘拐・殺人事件を清水氏が独自に追っていたものの集大成。テレビで報…

『彼女たちの売春(ワリキリ)――社会からの斥力、出会い系の引力』荻上チキ,扶桑社,2012

出会い系喫茶にいる女性の売春について、直接女性たちにコンタクトをとって取材しデータをとったもの。直接、男性と交渉して売春することを割り切り(ワリキリ)といい、風俗にいる女性とは異なる、女性が金を得るための方法の一つとして必要なものとして存…

『古本屋ツアー・イン・ジャパン』小山力也,原書房,2013

早稲田の書店で見かけてすぐさま購入した本。私は古本屋に行くのは好きなのですが、それは単にケチが高じたものであり、なるべく安く購入して多く読みたいだけなので、ブックオフばかり行っています(本日も行きました)。全国各地に旅行や出張に行くたびに…

「特集=週刊少年サンデーの時代 トキワ荘から『うる星やつら』『タッチ』『名探偵コナン』そして『マギ』『銀の匙』へ―マンガの青春は終わらない」『ユリイカ 2014年3月号』2014

『サンデー』に興味がない人、肌が合わない人にとっては何でこんな特集が成り立つのかわからないでしょうけど、私のようなサンデーっ子にとってはよくわかるんですよ。『ジャンプ』でも『マガジン』でもなくて、やはり『サンデー』なんですよね。だから『サ…

『ゴールデンタイム 8――冬の旅』竹宮ゆゆこ, 駒都えーじ,電撃文庫,2014

ラブコメ・ライトノベルの第8巻にして完結巻です。最後になって、今までの(第1巻からの)伏線を回収して、見事に着地しています。途中で、このシリーズはいったいどこへ向かっていくのか首をひねりましたが、なるようになったと言うところですね。ゴールデ…

『偽りの契り』スティーヴン・グリーンリーフ, 黒原敏行訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1994,1996

私立探偵ジョン・タナー・シリーズ第10作目の作品。この端正な私立探偵小説のシリーズもいよいよ残り少なくなってきました。孤独な探偵、消えた何か、正体が不明な依頼人、誤解を生じた人間関係、意外な結末に則っていて、私が求めているミステリそのものな…

『ヤンキー経済――消費の主役・新保守層の正体』原田曜平,幻冬舎新書,2014

ネット上で評判になった新書。135名のヤンキー層にインタビューして、いったい彼らがどのように生活を消費しているか、調査したものです。著者の目的は、「かつてのヤンキーが変容した形としての新保守層=マイルドヤンキーの実態と嗜好を明らかにします。ま…

『ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密』トマス・H・クック, 駒月雅子訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2012,2014

クックの27作目の新刊。以前も書いたと思うのですが、過去の出来事を探るというストーリーのためか、クックの描写法は独特で、何が事実で何が事実でないのか、一読では判断できず、読んでいる間中、真っ暗の闇の中を歩くような不安な思いをします。 しかし、…