ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

2021-01-01から1年間の記事一覧

『台北プライベートアイ』紀 蔚然, 舩山むつみ訳,文藝春秋,2011,2021

台湾が舞台の私立探偵小説。作者は台湾を代表する劇作家で,本書は小説のデビュー作。緊密なハードボイルドミステリというよりも,『疑り屋のトマス』やパーネル・ホールのスタンリー・ヘイスティングズ・シリーズに近い。つまり,主人公の独白が多く,しか…

『ブラックサマーの殺人』M・W・クレイヴン,東野さやか訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2019,2021ーーミステリ的にやられた感をもちました

もう夜も遅くなってしまって眠いのたけど,書くのを明日に後回しすると,面倒くさくなってしまって,結局は書かない,ということばかり続いているので,本書は結構いい作品だから,さっと記しておきます。 解説によると,本書は作者のM・W・クレイヴンの第…

『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ,山田蘭訳,創元推理文庫,2017,2019

歳をとったせいなのか,だんだん小説が読めなくなってきました。小説だけでなく,ビジネス書,実用書,人文書など活字全般を読む気力がなくなってきました。加えて社会問題にも興味をもてなくなってしまい,これが人生の終盤に入ったことなのか,と日々落胆…

『デルタの羊』塩田武士,KADOKAWA,2020ーーアクシデントに翻弄されるアニメ業界

作者の塩田氏は,私にとって,いつの間にかデビューしていつの間にかベストセラー作家になってしまって,映画化などあったにもかかわらず,今まで手に取る機会がなかった作家。本書はネットインタビューでアニメ業界を舞台にした作品だということで,トリガ…

『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東 浩紀,中公新書ラクレ,2020ーー組織を運営するには身体性がなくてはならない

『ゲンロン』という雑誌は知っていて,書店で手に取って「難しくてわからん」といったままで,本書の署名やインタビューから,てっきり出版社盛衰記だと思っていたけど,まったく違く内容だったにもかかわらず,一気に読むことができて,非常に面白かった。…

『法廷遊戯』五十嵐律人,講談社,2020ーー謎解きというよりもスリラー

作者は若き現役司法修習生であり,デビュー作にして『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』『このミステリーがすごい!2021年度版』ともに3位の作品。たしか出版時にメフィスト賞受賞作であり,講談社,書評家などが大型新人として絶…

『ミラクル・クリーク』アンジー・キム,服部京子訳,ハヤカワ・ミステリ,2019,2020

作者は11歳でアメリカに移住した韓国人で弁護士で,本作はデビュー作。弁護士らしく法廷もので,エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞),国際スリラー作家協会賞,ストランド・マガジン批評家賞の各最優秀新人賞を受賞した作品。 ストーリーは,韓国人の移…

『笑う死体―マンチェスター市警エイダン・ウェイツ』新潮文庫,2018,2020ーー新しい衣装に古典的なトリックでしかける

久しぶりの新潮文庫の海外ミステリ。昔はたくさん読んだんだけど,最近は何故かご無沙汰。書体が読みやすく驚いた。内容も暗く暑苦しい感じが同じ新潮文庫の『ストーンシティ』を思い出した。内容はまったく覚えていないけど。 本作はイギリスのマンチェスタ…

『蝉かえる』櫻田智也,東京創元社,2020ーー文章と構成に無駄のない短編

新人の第2作目の短編集にもかかわらず,『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』で9位,『このミステリーがすごい!2021年度版』で11位の作品。 表題作の「蝉かえる」の他に「コマチグモ」「彼方の甲虫」「ホタル計画」「サブサハラの…

『たかが殺人じゃないかーー昭和24年の推理小説』辻 真先,東京創元社,2020ーー密室殺人とバラバラ殺人

巨匠の辻氏の新作で『ハヤカワミステリマガジン ミステリが読みたい! 2021年度版』『このミステリーがすごい!2021年度版』の両方で1位の作品。 戦後の新制高校の3年生が舞台。推理小説研究会の風早勝利は同じ会に属する響子が気になっていた。そんなとき密…