ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

2013-01-01から1年間の記事一覧

2013年のベストと仕事のこと

たまには統括しようと思うのですが、私の読書傾向は高校時代から毎年変わらないなあ、と嘆いていたら、社会人になってから読書時間が短くなったために古典を読まなくなったことに気づいて、さらに嘆きたくなります。本来は古典を読まなくてはならないのです…

『ミステリマガジン 2014年 01月号』2013/『このミステリーがすごい! 2014年版』『このミステリーがすごい!』編集部編,宝島社,2013

毎年恒例になったらしい2013年発行のミステリ・ベスト・ランキング発表号です。 海外篇ベスト20のうち既読は4作ですが、そのうちベスト3を占めていました。といっても、どれもその作家の最高傑作とはいえず少しがっかりしたのですが……。 国内篇はベスト20の…

『叫びと祈り』梓崎優,東京創元社,2010

さて、書評された内容で自分に合うかもしれないと、かねがね気になっていた新人のミステリ短編集です。アラビアの砂漠、スペインの風車、ロシアの修道院、ブラジルのアマゾンなどを舞台にした、一人の日本人の青年が主人公の連作ミステリが5作収録されてい…

『ノックス・マシン』法月綸太郎,角川書店,2013

法月氏の今年3月に発行された新作。発売当時にタイトルからハードミステリではないかと興味をもって読もうとしたのですが、あとがきをみたら『本書には「本格」SF(本格ミステリを主題にしたSFの意)の中短編を四編収めました』としていたので手を引いたの…

『刺青(タトゥー)白書』樋口有介,創元推理文庫,2000,2007

フリーライターの柚木草平シリーズの長篇第4作目の作品。地味系の女子大生を主人公にすえた連続殺人事件を追う話で、柚木は主人公に依頼を受けるわけでもなく、フリーライターの立場で事件の真相を突き止める。 殺された女性二人は一見接点がなく、殺人方法…

『厨子家の悪霊』(山田風太郎奇想コレクション),山田風太郎,ハルキ文庫,1997

山田風太郎のミステリ短編集。収録作は「厨子家の悪霊」「殺人喜劇MW」「旅の獅子舞」「天誅」「眼中の悪魔」「虚像淫楽」「死者の呼び声」の7作品。謎解き・サスペンス・ホラーの趣をもっています。とくに「厨子家の悪霊」ですが、どんでん返しがドミノの…

『夏のレプリカ』森博嗣,講談社ノベルス,1998

森博嗣氏の第7作目の作品。前作の『幻惑の死と使途』と時間的に同時期で対をなす作品ですが、本作から森氏が少し変わったのではないかという印象を持ちました。前作までは純粋な物理的な謎解きミステリにこだわってきましたが、それ以外の要素を入れ込んでき…

『大きな森の小さな密室』小林泰三,創元推理文庫,2008,2011

SF作家の小林泰三氏の謎解きミステリの短編集。目次に「大きな森の小さな密室 犯人当て」「氷橋 倒術ミステリ」「自らの伝言 安楽椅子探偵」「更新世の殺人 バカミス」「正直者の逆接 ??ミステリ」「遺体の代弁者 SFミステリ」「路上に放置されたパン屑の…

『追想五断章』米澤穂信,集英社文庫,2010,2012

本書は、大学休学中に古書店で働く大学休学中の青年を主人公にしたノンシリーズの謎解きミステリ。その青年、菅生芳光が店にいると、松本から来たという若い女性が、『壺天』という同人誌を探しているとお客としてあらわれた。 その同人誌の世話人がその古書…

『ラットマン』道尾秀介,光文社文庫,2008,2010

道尾氏のサスペンスミステリ。アマチュアロックバンドの練習中に起きたメンバーの1人が死んだ殺人事件にまつわる物語です。そのメンバーの1人である姫川亮という男が主人公なのですが、メンバーの1人がスタジオで起きた事件と言うことで、犯人はかなり限定的…

『スイス時計の謎』有栖川有栖,講談社ノベルス,2003

近頃、仕事で心が疲れているので、短編集がよいなと思って手に取った、有栖川氏の4つの中短編を収録した短編集です。収録作は、「あるYの悲劇」「女彫刻家の首」「シャイロックの密室」「スイス時計の謎」で「スイス」が100頁を占めます。すべての文字が謎解…

『楽園』宮部みゆき,文春文庫,2007,2010

本作は、宮部みゆき氏の代表作『模倣犯』の主人公のジャーナリストである前畑滋子の9年後のお話です。私は『模倣犯』をハードカバーの2001年発売当初に同僚に借りて読んでいるので、10年以上ぶりになります。 本書のオープニングから、主人公の前畑の前作の…

『ゴールデンタイム (7) I'll Be Back』竹宮ゆゆこ, 駒都えーじ,電撃文庫,2013

10月よりアニメも始まっていますが、意外にも面白いですね。今期の他のアニメがファンタジーあるいはスポーツ物ばかりで、『ゴールデンタイム』のような学園物がないせいですかね。香子のキャラクターが嫌みになっていないので、丹念にキャラの心情を追って…

「劇場版 魔法少女まどかマギカ [新編] 叛逆の物語」2013

観てきました。面白かったですね。観客へのサービスがたっぷりで、上映時間が2時間あるのですが、まったく飽きることありませんでした。第2作としては完璧です。「今度は戦争だ!」というセオリーに乗っ取っていました。テレビ版を見て、もう一度同じような…

『イン・ザ・ブラッド』ジャック・カーリイ, 三角和代訳,文春文庫,2009,2013

ジャック・カーリイの精神病理・社会病理捜査班(PSIT)シリーズ第5作目の作品。私はカーリイの中で『百番目の男』をベストとするとともに、オールタイム的にも高く評価しています。未だに犯罪者の動機のユニークさ+理詰め的な高さでは『百番目』以上の作品…

『失踪日記2 アル中病棟』吾妻ひでお,イースト・プレス,2013

『失踪日記』の続編です。アルコール依存症によって入院してしまった日々を詳細に淡々と描いています。一つ一つのコマにリアルな表情、仕草、時間経過などがきちんと描かれているため情報量が多く、読み終えるのに時間がかかりました。患者は入院中は暇にし…

『白い僧院の殺人』カーター・ディクスン, 厚木淳訳,創元推理文庫,1934,1977

ヘンリー・メリヴェール卿のシリーズの第2作目の作品。処女作の『夜歩く』が1932年の作品ですから、カーの初期作といえます。カーの未読作は結構あり本棚に積ん読されているのですが、どれもが小さい活字であるため、なかなか手に取りにくくなっています。先…

「特集 ポケミス60周年記念号」『ミステリマガジン 2013年 11月号』2013

特集で71名にポケミスベスト3を挙げるアンケートを行い発表されています。口絵にそれらを集計した(らしい)ベスト10が並べられているのですが、その中で私が既読なのは5作品。しかしそれも文庫がほとんどで、ポケミスで読んだのは1作品のみでした。残り5作…

『ものはためし』A・A・フェア, 鷺村達也訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1962,1962

バーサ・クール&ドナルド・ラム・シリーズ全29作中23作目の作品。なんと原著が発行されたのと同じ年に翻訳が発行されています。現在ですと『ミステリガール』が映画に合わせて本国で発行前に日本で先に発行されていましたっけ。それだけ人気だったのでしょ…

『3日もあれば海外旅行』吉田友和,光文社新書,2012

発売当初、書店で見かけて気になっていた新書です。それは長期の休みはなかなか取れないものの、土日合わせて3日ならば仕事のスケジュールを計画的に進めることができれば、結構計画的に休日がとれるので、その間だけでも旅行ができるなあと思っていた矢先で…

『消失グラデーション』長沢樹,角川書店,2011

2011年、第31回横溝正史ミステリ大賞受賞作。新人賞ながら2012年版の「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」で第6位に選ばれた作品です。綾辻氏、北村氏、馳氏が絶賛しているのも気になって手に取りました。 冒頭から体言止めが多く出てく…

ワゴンセール

地方のブックオフで見つけた岩波文庫のワゴンセール。各200円でした。おそらく1人の読書家が亡くなったかのでしょうか。ごっそり売られてしまったのでしょうか。たくさんあったものの、私が探しているものはありませんでした。マケプレにも出てこないし、コ…

『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン, 柳沢由実子訳,東京創元社,2001,2013

『湿地』で本邦初紹介されたインドリダソンの『湿地』に続く作品でシリーズ4作目のCWAゴールドダガー賞/ガラスの鍵賞同時受賞作品。原著は2001年発行ですから10年以上前ですね。もし当時翻訳されていたのでしたら、サイコミステリに分類されて、あまり評価さ…

『ゴールデンタイム列伝 AFRICA』竹宮ゆゆこ, 駒都えーじ,電撃文庫,2013

時系列的には、本編『6』と次に発行予定の『7』に当たる短編集。主人公がそれぞれ千波(と香子)の「AFRICA」、柳澤の「ユア・アイズ・オンリー」、さらに香子の「束の間の越境者」の3篇。まあまあ面白かったです。 しかし何故私がこのシリーズにイマイチの…

『夢を売る男』百田尚樹,太田出版,2013

自費出版を専門に手がける出版社を舞台にした話題作。自費出版ビジネスとはどういうものか分かります。これがリアルなものか確信をもっていえませんが、私も「きちんとした原稿を書かないにもかかわらず、どうして本を出版したがる人が多いのだろう」と愚痴…

『冬のフロスト』R・D・ウィングフィールド, 芹澤恵訳,創元推理文庫,1999,2013

仕事が忙しく小説もあまり読む気力がなく1日30頁と決めて2週間かかってようやく読み終えることができました。午前中は自宅でゲラのチェック,昼からは出社し諸処の作業と連絡をして,夜は「半澤直樹」に興奮し「有頂天家族」に泣かされ(本当に久しぶりにア…

『家蝿とカナリア』ヘレン・マクロイ, 深町真理子訳,創元推理文庫,1942,2002

6月初旬から仕事が立て込んできて小説を読む時間が取れなくなってきました。読んでも通勤時間の20分ぐらいで疲れて寝てしまうこともしばしば。そのため薄い短編集を読みたいのですが、どの出版社でも短編集だと分厚くしてしまいます。数多く収録したいのは分…

『ドラゴンの歯』エラリー・クイーン, 宇野利泰訳,創元推理文庫,1939,1965

謎解きミステリを読みたい気分になって手に取った一冊。クイーンは国名シリーズのすべてを読んでいないのですが、それがどれだか分からなくなってしまいました。本書は、『災厄の町』の前作でクイーン中期の作品。ボー・ランメルというクイーン警視の友人の…

『“文学少女”と神に臨む作家』野村美月,ファミ通文庫,2008

文学少女シリーズ第7作目にして最終巻。それぞれの巻でそれぞれの登場人物にまつわる物語を語ってきたシリーズですが、いよいよ文学少女=天野遠子の物語で閉幕しました。このシリーズは不思議な魅力をもっていて、ドラマのカタルシスよりも、謎解きのカタル…

『チェイシング・リリー』マイクル・コナリー, 古沢嘉通, 三角和代訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2002,2007

本作はコナリーのシリーズものではない、単発もの。コナリーには当初あまりいい印象をもっていませんでした。というのは、やはり初期作がエルロイの影響を受けているというよりもエルロイの劣化版なのかなと判断していたからです。まあ、最近は読むことがで…